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NPOにとって大切な「社会的な信頼」。組織評価と向き合うNPO

- NPOは市民との信頼関係を築いてこそ成り立つ組織である
- 「非営利組織評価センター」はNPOを第三者の立場で組織評価し、NPOと支援者の双方をつなげる役割を担う
- NPOは組織評価を受けることで、寄付先としての信頼を獲得し、運営体制の強化につながる
取材: 日本財団ジャーナル編集部
NPOと聞いて、どんなイメージを抱くだろう。「慈善事業」「社会のために良いことをしている」という声もあれば、「どんな活動を行っているのかよく分からない」「ちょっとうさんくさいかも」といった意見がある。
2016年4月に誕生した、一般財団法人「非営利組織評価センター(JCNE)」(別ウィンドウで開く)が実施する「第三者組織評価(以下、組織評価)」は、NPOの組織運営を第3者の立場から適正に評価・情報公開することで、NPOと支援者の双方をつなげ支援の輪を広げるための取り組み。NPOにとってはこの評価を受ける過程で組織改善やスタッフの意識改革が進み、運営体制が整うといったメリットもある。
今回は、信頼性の高い組織として「グッドガバナンス認証」を付与された認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい(以下、もやい)」(別ウィンドウで開く)代表の大西連(おおにし・れん)さんに、日々の活動内容や組織評価を受けた目的について話を聞いた。
支援者とNPOを“信頼”というつながりで結ぶ組織評価
NPOをはじめとする非営利組織が、継続して活動するために不可欠な寄付や助成金。日本より成熟したチャリティー文化を持つといわれるアメリカでは、年間30兆円以上の寄付が集まるという。そしてアメリカに存在するNPOは、なんと100万団体に及ぶ。数ある団体の中から、しっかりとした活動を行っている組織を見つけるために「チャリティの番犬」と言われる組織評価制度が存在している。
有名な評価機関では、1920年から慈善団体の信頼性を検証・報告している「BBBワイズ・ギビング・アライアンス」や、米国最大規模の「チャリティー・ナビゲーター」といった評価機関があり、組織のガバナンスや事業の効率性、財政などチェックしている。ヨーロッパやアジア諸国でも、このような組織が存在し、魅力的な活動を行う団体と、支援者をつなげている。
日本でも2016年に、「非営利組織評価センター」が設立され、ガバナンスなど組織の自律・自立性を問う23の評価基準「ベーシック評価」(別ウィンドウで開く)にて多くのNPOの評価を行っている。
図表:第三者評価制度の仕組みと活用

また、このベーシック評価に加え「市民参加と連携・協議」や「学びと創造」など、NPOの理想的な姿を評価する27項目の「アドバンス評価」を満たし、認証された団体には「グッドガバナンス認証」(別ウィンドウで開く)が付与される。今回話を聞く「もやい」はグッドガバナンス認証を取得した団体の一つだ。

人が生きていくために必要な「ゆるいつながり」をつくり続ける「もやい」
「僕たちが考える“貧困”とは、経済的な困窮および、人間関係の孤立。そんな貧困問題を社会的に解決するために生まれたのが、もやいなんです」
そう話すのはもやい代表の大西さん。

団体名の「もやい」は、船を岸につなぐ際に使う、簡単に結べて解ける「もやい結び」から取ったものだ。家族のつながりや地域のつながりといった、固い絆は素晴らしい反面、一回そのつながりを断ち切ってしまうと、修復が難しいもの。それなら、「つながってもいられるけれど時には離れることもできる、そんなゆるいつながりをつくろう」。というのがもやいの理念である。
具体的な活動は、路上や公園、病院など「ホームレス状況」に置かれている人々への「住」のサポート。アパート入居時の連帯保証人の引き受けを行っている。さらに、生活保護申請の支援や、似たような問題を抱える当事者同士の交流の場を提供し、社会的な孤立を防ぎ、新しい人間関係をつくる支援をしている。


「人生って選択の連続ですよね。うまくいくこともあれば、失敗することもある。我々がサポートしている人たちには、ホームレスの方々の他にも、DV被害を受けた女性や、海外から日本へ移住した外国籍の人たち、精神障害がある人たちがいますが、誰でも、生まれた環境やちょっとした違いで同じ状況になりうるのかなって思うんです。我々の活動を通して、そういった方々の尊厳を回復し、さまざまな機会を与えられたらと考えています」
組織評価で「クリアな組織をつくりたい」というスタッフの思いが高まった
そんな大西さんたちが組織評価を受けたのは、2018年度のこと。もともとガバナンスを重視し情報開示を心掛けていたため、認定取得の過程で苦労はそこまでなかったと語る。

「我々が組織評価や認定NPOを取得する理由は、シンプルです。NPOとして、活動を続けていくためには資金の調達が必要なので支援してくださる個人や社会へ向けて、情報を開示することで信頼を積み重ねていくことが大切なのです。今回、組織評価を受けることで、組織内でも『クリアな運営は大切だよね!』という認識が共有できたのはとても良かったです」
急激に大きくなるという可能性を秘めているNPO
社会課題とダイレクトにかかわるNPO。自分たちが取り組む課題に対する社会の注目度によっては、急激に資金が増えたり、減ったりすることもあるという。
「もともともやいは、活動資金が2,000万円規模の団体でした。しかし、リーマンショックの際、もやいのメンバーも参加し、2008年12月から2009年1月まで開設した“年越し派遣村”が注目されることによって、資金規模がいきなり5倍の1億円になったのです。メディアの取材も急激に増えたのですが、当時の我々にはしっかりとしたルールがなく、運営に支障をきたしました。その出来事をきっかけに、情報の開示や組織づくりを意識するようになったんです」


2011年の東日本大震災では、東北各県への寄付が増えたためか、一時的に寄付が減ったこともある。そんな時、組織基盤や管理体制がしっかりしていないとNPOとして活動を継続していくことが難しくなってしまうという。
「新しいNPOは、すぐに組織評価を受ける必要はないと思います。でもいつか、急激な組織変化を問われるタイミングが訪れ、しっかりとした組織づくりや、情報開示のシステムが必要になるかもしれない。そういったことを見越して、組織評価を考えておくのは良いかもしれませんね」
「寄付先=ホームページの見栄え」を避けるために
現在の日本では、これまで以上に社会課題に対する意識が高まっており、NPOはその受け皿になれる可能性あるという大西さん。しかし、活動を知ってもらうための取り組みなど、不足している部分もあると指摘する。

「気をつけなければいけないのは、NPOと支援者を結ぶのがホームページといった広報ツールただ一つになること。サイトなどの見栄えだけで寄付先が決まるなら、これはもう広報合戦になってしまいますよね。そんな時に、もう一つの指標として組織評価などがあれば、市民の人たちも安心して寄付先を選ぶことができると思います」
人を孤独から救う「もやい結び」のように、たくさんの人間や組織を結びつけることで、社会の課題を解決していくNPO。それは、信頼関係の上に成り立つ事業とも言える。「信頼を得られる組織」であるためには、普段の活動内容はもとより、しっかりとした組織基盤が問われることとなる。組織評価はそんなNPOと社会を結びつける“架け橋”になり得るかも知れない。
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい
「日本の貧困問題を社会的に解決する」というミッションを掲げる認定NPO法人。2001年の設立以来、ホームレス状態の生活困窮者の支援に携わり、アパート入居する際の連帯保証人を引き受けている。他にも生活困窮者からの相談や、コミュニティカフェなど居場所づくりの活動も積極的に行っている。
もやい 公式サイト(別ウィンドウで開く)
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