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投票日は一人ひとりが未来を選択できる日。2日間の「お祭り」で見えた新たな選挙の可能性

- 2019年の参議院議員選挙の投票率は10〜30代の若年層の参加率が他の年代に比べて低水準に
- 政治や社会のことについて、家族や友人と語れる空気感が日本社会にないことが問題
- 選挙のたびに楽しい時間が過ごせたら、きっと政治に対するイメージも良いものに変わるはず
取材:日本財団ジャーナル編集部
大阪のみならず全国的に高い関心を集めた、大阪市を廃止し4つの特別区に再編する「大阪市廃止・特別区設置住民投票」。この投票を盛り上げるべく、投票前日と当日にあたる10月31日と11月1日の2日間にわたって、無料で楽しめるイベント「マツリゴトOSAKA 2020」(別ウィンドウで開く)が開催された(11月1日は投票者のみ参加可)。
主催は、エンターテインメントを通してさまざまな社会課題の解決に取り組んでいる一般社団法人「UMF」(別ウィンドウで開く)。「政(マツリゴト)を祭に。」をテーマに、「The Forum」と題して開催された1日目は、ジャーナリストの堀潤(ほり・じゅん)さんと学生らによるパネルディスカッションなどを実施。2日目はサンケイホールブリーゼを会場に、SPRISE(スプライズ)やalcott(アルコット)といった関西を中心に活躍するアーティストの他、DJやウクレレ奏者などが登場する多彩な音楽ライブが行われた。
今回は、政治へ関わるきっかけや政治との向き合い方など、白熱のディスカッションが展開された1日目の模様をメインにレポート。「マツリゴトOSAKA 2020」がつくり上げた、さまざまな「きっかけ」を振り返る。
歴史ある会場で選挙を楽しいお祭りに
「マツリゴトOSAKA 2020」とは、UMFがミッションとして掲げている選挙投票率向上への取り組みの一環として開催されたイベントである。
総務省の資料によると2019年に行われた参議院議員選挙における投票率は、10代が約32パーセント、20代が約31パーセント、30代が約39パーセントと、若年層の参加率が他の年代に比べて低水準にとどまっている。
図表:参議院議員通常選挙における年代別投票率の推移

- ※ この表のうち、年代別の投票率は、全国の投票区から、回ごとに142~188投票区を抽出し調査したものです
- ※ 10歳代の投票率は、H28は全数調査による数値です。
UMF代表の高村治輝(たかむら・はるき)さんは以前インタビュー(別ウィンドウで開く)で「投票率の向上には、まず関心を持ってもらうことが必要」だと話してくれた。その考えを形にし、「選挙の日=楽しいお祭りの日」にしたのが「マツリゴトOSAKA 2020」なのだ。
当日は、投票した人は無料で参加できるだけでなく、近隣店舗で使える割引クーポンなども配布。ただ選挙に行って帰るだけでなく、選挙に行くことで楽しい1日を過ごせるように工夫が凝らされていた。
イベント初日の会場は100年以上にわたって大阪市と歴史を共にしてきた大阪市中央公会堂。すぐ裏手には大阪市役所があり、市の廃止・存続を問う選挙の啓発イベントの文脈にも沿ったふさわしい会場と言える。
安心して来場できるように新型コロナウイルス感染症対策を講じ、人数制限を設けての動員と、YouTubeを使ってのライブ配信も行われた。
司会を務めたのは、海外でも活躍するスタンダップコメディアン・ぜんじろうさんと、現役大学生で「関西女子大生団SHELLY」代表の角野天音(かどの・あまね)さん。鋭い風刺が効いたぜんじろうさんの軽妙なMCと、学生目線の等身大の意見を交えながらイベントを進行していく。

オープニングアクトでは、アジア大会での優勝経験を持つヒューマンビートボクサーのSO-SO(ソーソー)さんが登場。マイク1本でさまざまな音を重ねていくスゴ技で観客を釘付けにする、華やかな幕開けとなった。

社会課題の関心を高めて、気軽に議論できる風潮に
「わたしと社会」をテーマにしたトークセッションでは、UMF代表の高村さん、社会問題の解決策を学ぶ教育プログラムを学校現場に提供する「Tomoshi Bito」(別ウィンドウで開く)株式会社の廣瀬智之(ひろせ・ともゆき)さん、人と社会課題をつなぐさまざまな事業を展開する一般社団法人「リディラバ」(別ウィンドウで開く)の安部敏樹(あべ・としき)さんが登場。これまで取り組んできた社会課題や解決するために必要な取り組みについて語り合った。
廣瀬さんは「政治や社会のことについて、家族や友人と語れる空気感がないことが問題。スポーツの話をするように、もっと気軽なものにできたら」と、社会課題に対して当事者意識を持てるような環境づくりが必要だと語る。
350以上の社会課題に取り組んできた安部さんは、自身が不良だった過去を省みながら、課題の解決には「多くの人に関心を持っていただき、そもそも何が問題なのかを見つける。そして、その問題をみんなで共有して、一緒に解決していくことが大事」と訴える。

また、社会課題とエンターテインメントの掛け合わせについて、廣瀬さんは「さまざまな社会課題は、いかに身近に感じられるかが重要になってくる。まだまだ関心の薄い若い世代に知ってもらうためには、エンターテインメントの力で見かけを面白くすることで、一人ひとりが考えるきっかけをつくることも必要」と話す。
安部さんは「大ヒットしている作品を見ても、物語の根幹には社会性がある。悪役を絶対悪として描くのではなく、なぜ悪の道に染まったのか社会的な背景を丁寧に描く作品も出てきた。社会性が内包されていないと深みがないので、面白いものは作れない」と熱弁する。

さまざまなフィールドで活動している3人だが、今イベントの目的となる投票率の向上も、近年注目されているSDGs(持続可能な開発目標)やLGBTQ(※)などの課題も、多くの人が関心を持ち参画して初めて解決につながるということを再認識。そのためにも、エンターテインメントの力で親しみを持つきっかけをつくり、関心を集めて、日常の中で話す習慣や、考える機会や環境をつくり上げていくことが大事であるという考えで一致し、セッションは大いに盛り上がった。
- ※ 「Lesbian(レズビアン)」「Gay(ゲイ)」「Bisexual(バイセクシュアル)」「Transgender(トランスジェンダー)」「Queer(クィア)」の頭文字をとった性的少数の人たちの総称
投票日は一人ひとりが未来を選択できる日
ジャーナリストの堀潤さんが参加したトークセッションでは、「わたしと都構想」をテーマに住民投票や政治の疑問、政治との関わり方について語られた。

参加メンバーは、政治に関する意見交換会などを開いている「草の根の集い Osaka」代表のりゅうちゃん、麻生太郎(あそう・たろう)氏や安倍(あべ)前首相らの政治家モノマネで話題を集めているYoutuberの麻(あさ)タロウさん(別ウィンドウで開く)、そして学生団体「UMF」(別ウィンドウで開く)の活動を通して政治に関心を持ち始めたばかりだという学生のもえさんと個人事業主のたいやきさんの4人。
「同級生は、みんな政治に興味がなくてこれからが心配」「テレビを見ていてもネガティブな話題が多く、関心を持ちにくい」「自分の声が届いていると感じたことがない。住んでいる世界が違うような気がする」など、政治にまつわる不安や不満を等身大でぶつけ、堀さんが一人ひとりと対話しながら一緒に考える時間に。世代を超えて、意見を交わせる環境の重要性や、意見の相違があっても対話することで調和が生まれていくということが体現された、有意義なセッションとなっていた。


4時間にわたって繰り広げられたフォーラムは、トークディスカッションをエンタメ化することで、多くの人が選挙や社会課題について考えたり話し合ったりするきっかけとなった。
また、翌日にサンケイホール ブリーゼで開催された音楽ライブ中心の「マツリゴトOSAKA 2020 The Festival」の盛り上がりは、投票日が楽しいお祭りになれば、より多くの人が選挙に関心を持ち、投票に行くきっかけになることを証明してみせた。


投票日は、一人ひとりが思い描く未来を選択できる日だ。2日間のイベントを終え、主催の高村さんは「投票日に、未来への希望を感じられるような楽しいイベントをこれからもつくっていきたい」と決意を新たに語った。
「選挙のたびにお祭りが楽しめたり、割引サービスを利用して買い物したりしながら、いい日曜日を過ごすことができたら、きっと政治に対するイメージも良いものに変わっていくと思います」と、イベントを締め括った高村さん。
エンターテインメントを入り口に若者が選挙へ参加し、政治について気軽に話したり、考えたりするきっかけが増えれば、もっと政(マツリゴト)は身近なものになるだろう。そうなれば、若者自身がより生きやすい社会が実現できるはず。
2021年7月には、東京都議選に合わせて「マツリゴト」の東京開催も発表された。UMFの挑戦はまだ始まったばかりだ。
撮影:800クリエイターズ
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。