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【災害を風化させない】「遊び」を通して、支え合うの大切さを伝える。防災ゲームの開発に秘めた菅原清香さんの想い

- 東日本大震災では多様な支援者に支えられ、被災者同士も支え合うことで、災害を乗り越えることができた
- 「一人ひとりの暮らしに合わせて備える」「困ったときに助け合う」ことが、防災の要
- 「遊び」の要素も取り込みながら、災害の記憶や防災の大切さを社会に広める
取材:日本財団ジャーナル編集部
2021年は、東日本大震災から10年、熊本地震から5年といった、未曾有の被害をもたらした大震災の大きな節目となる年。連載「災害を風化させない」では、復旧・復興に取り組んできた人々のインタビューを中心に、今もなお活動を続ける人々の声を通して、災害に強いまちづくり、国づくりを考える。
今回は、地域一体となった福祉・防災学習の推進に取り組む、くらしの学びサポートオフィスHumanBeing(ヒューマン・ビーイング)(外部リンク)代表の菅原清香(すがわら・さやか)さんにお話を伺った。
菅原さんは、東日本大震災からの復興と災害にも強い福祉のまちづくりを目指し、福祉・防災学習プログラムやツールの開発、体験学習事業の講師、研修会の企画・運営などに取り組んできた。
2019年からは、遊びながら防災知識が養える「防災ゲーム」(外部リンク)の開発に取り組み、業界関係者から期待の声が寄せられている。
被災地から何を伝えようとしているのか。その想いに迫る。
大学生の頃から関心が高かった「防災」
宮城県仙台市を拠点に、防災の重要性について発信し続けている菅原さん。その原体験になったのは東日本大震災が発生するよりも前、菅原さんがまだ大学生の頃だった。
県内にある福祉系大学に進学した菅原さんは、ボランティアサークルでの活動を通じて、防災に触れるようになっていったという。
「その頃、宮城県沖地震の発生確率が高まっていると専門家による指摘がなされていたんです。それもあって先輩たちの危機意識は高かった。それをきっかけに、私も防災活動に参加するようになっていったんです。転機となったのは大学4年生の頃に体験した、岩手・宮城内陸地震(2008年)。被災した方々に足湯を楽しんでもらう『足湯ボランティア』を行うことになり、私も被災地まで足を運びました。そこには全国各地から災害支援のエキスパートたちが集まっていて、つながりができたんです。同時に、防災や災害支援を生業にすることができるんだと、驚きました」
とはいえ、当時はまだ防災や災害支援はボランティアとしての側面が強かった。大学を卒業した菅原さんも、それを仕事にすることはできなかった。

「でも諦めきれなくて、フリーターをしながら防災に関するお仕事を少しずつ始めていったんです。そんな時に岩手・宮城内陸地震の支援先で出会った山形県のNPO法人の方から声を掛けていただいて、短期間だけど山形で働くことになりました。それが2010年10月のことです」
その約5カ月後となる2011年3月11日、東日本大震災が発生する。当時、菅原さんは山形にいたそうだ。
「震災時は高速道路を走っていて、日本海側にいたこともあり揺れには気付けませんでした。友人から連絡をもらい、事態を把握したんです。大慌てで山形の拠点に戻り、どうにか生まれ故郷を支える活動ができないか考えました」
本格的に宮城県の防災・災害支援に携わるようになったのは、2011年9月から。しかし、相当な葛藤があったという。

「元々、宮城県沖地震が来ると言われていたので、震災が起きたときは『ついに来たのか……』という気持ちでした。いざというときには力になろうと思い、震災前から活動を進めてきましたし。でも、実際に宮城に戻っても、自分の思いどおりにはできないことが多くて、力不足を痛感する瞬間が多々ありましたね。すごくしんどかったです」
防災とゲームを掛け合わせ、震災を風化させない
力不足を感じながらも、菅原さんは地道に活動を続けた。
2016年に立ち上げた、くらしの学びサポートオフィスHumanBeingでは、人々の暮らしを支えるための学びや実践活動への取り組みが主な業務になっている。


同時に、アジアの子どもたちの成長を支援する一般社団法人コミュニティ・4・チルドレン(外部リンク)では、宮城事業担当および福祉・防災学習コーディネーターとして、防災に関する研修会の企画実施や学習ツールの作成に取り組んでいる。
また、日本の子どもたちが笑顔で成長できる地域づくりに取り組むコミュニティ・エンパワメント・オフィスFEEL Do(フィールド)(外部リンク)では、研究員として福祉・防災に関する取り組みに参加している。
いずれも防災や災害支援をベースとしながら、災害を風化させないための活動である。
そんな菅原さんがこれまでの体験と知識、想いを総動員して開発を重ねているのが防災ゲームだ。
ラインナップは2種類。「持ち出し品ゲーム(仮)」では、非常時に必要となる物が一人ひとり異なることや自分にとって必要な備えについて考えることができ、「防災すごろく(仮)」では、“助け合い”が災害を乗り越える力になるのだと気付きを与えてくれる。
どちらもカードゲーム形式になっているため、子どもはもちろん大人も一緒になって、楽しく遊びながら防災の知識を身に付けられる。


「プロジェクトを立ち上げたのは2年前。ヒントになったのは、震災直後から地元で頑張ってきた人たちから聞いた意見です。彼らは『外からの支援が入ってくるまでは自分たちで頑張らないといけなかった。特に学校が休みになってしまった学生さんたちが避難所や地域で活動する姿には励まされた』と言っていて。要するに、みんなで支え合ったことで災害を乗り越えられた、と。その声が印象に残っていたので、多くの人に助け合うことの大切さを伝えられないだろうか、と考えました」
そうして口火を切ったプロジェクトには、菅原さんの他に、コミュニティ・4・チルドレン、FEEL Doの代表を務める桒原英文(くわはら・ひでふみ)さんをはじめ、社会福祉協議会の職員、実際に避難所生活を経験した人などが開発に関わった。

「自分一人で制作するのではなく、できるだけいろんな人の視点を取り入れたい」という考えがあったからだ。実際、複数人の視点が入ることにより、防災ゲームの可能性はどんどん広がっていったという。
「企画会議を通じて、『誰もが緊急時の持ち出し袋を用意しているわけではない』という話が出て、急遽、『持ち出し品ゲーム』を制作することになったんです。ただ、メンバーにはゲーム作りの知見を持った人が誰もいない。なので、仙台市にあるボードゲーム屋さんを訪れて、さまざまなゲームを体験してみることから始めました。苦労したのは、防災の知識とゲーム性を両立させること。学習ツールである一方、ちゃんとしたゲームとしても成立させたかったんです」
その努力もあって、ゲームを体験した人たちからの評判は上々だった。
「体験会を開催したところ親子や職場の仲間同士など、さまざまな立場で参加してくださる方がいて。皆さん、とても楽しんでくださったようで安心しました。一方で難易度が高いところもあったようなので、微調整もしていかなければいけないと感じています」

震災の記憶を後世につないでいく
震災から10年。これを節目と捉えることに抵抗がある人も少なくない。いまだ復興は終わっておらず、区切りがつけられるものではないからだ。
この10年という歳月を、菅原さんはどのように捉えているのだろうか。
「すごく難しいですよね。人間は忘れていく生き物ですし、忘れることを悪いとは言い切れない。私だって、他の地域で起きた災害についてずっと覚えているかと聞かれると、自信がないです。だから、東日本大震災のことだけは絶対に忘れないでください、とは言えません」
薄れていく過去の記憶。ただし、その中で「自分がすべきこと」は見えているという。

「あの震災から10年が経ち、当時幼かった子や生まれていなかった子たちが大きくなっています。彼らに震災のことをどのように伝えたらいいのか。そのことを考えているんです。以前、沿岸の町に住む女性にお話を伺ったら、彼女は『自分よりも大変な経験をした人が大勢いるんだから、わざわざ自分の苦労を話そうとは考えたこともない』と言っていて。でも、当時のつらい記憶や思いを抱えている方は今もたくさんいらっしゃいますが、1人でも多くの人が実体験を語り継いでいくことはとても大切なこと。それが次の一歩につながっていくと思うんです。だから、私にできる方法で、宮城の皆さんと共に経験をつなぎ続けていきたいと思っています」
ゲームで楽しく遊ぶことをきっかけに、自然と災害や防災について興味を持ってもらう。ユニークな取り組みで震災を風化させない菅原さんの挑戦は、これから先も続いていく。
写真提供:HumanBeing
〈プロフィール〉
菅原清香(すがわら・さやか)
宮城県仙台市出身。東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科卒。大学在学中に所属したボランティアサークルをきっかけに、防災学習や被災地支援に取り組み始める。卒業後は山形県、新潟県の災害支援・地域防災NPOにて勤務し、2012年宮城に戻り 2016年に、くらしの学びサポートオフィスHumanBeingを設立。その他、一般社団法人コミュニティ・4・チルドレン宮城事務局福祉・防災学習コーディネーター(2012年〜)、コミュニティ・エンパワメント・オフィスFEEL Do 研究員・事務局(2013年〜)としても活動。
くらしの学びサポートオフィスHumanBeing 公式サイト(外部リンク)
連載【災害を風化させない】
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第1回 歴史的な一枚の写真が紡いだつながり。写真家・太田信子さんが撮り続ける理由
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第11回 「遊び」を通して、支え合うことの大切さを伝える。防災ゲームの開発に秘めた菅原清香さんの想い
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- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。