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投票率向上は誰のため?学生団体ivoteが同世代に伝える1票が持つチカラ

- 若者の投票率は依然として低く、2021年の衆院選では10代、20代の約6割が投票せず
- 学生団体ivoteは出前授業や模擬選挙など「若者と政治のキョリを近づける」活動を展開
- 選挙は社会に対する自分の思いを形にする、最も身近な政治参加の手段
取材:日本財団ジャーナル編集部
2022年7月10日は参議院選挙(外部リンク※1)の投開票日。2021年10月に行われた衆議院選挙(※2)の最終投票率は55.93パーセントと戦後3番目に低い投票率だった。20代の投票率は2019年の参議院選挙と比べると2.65パーセント、10代では2.72パーセント上昇したものの、約6割が投票しないという結果に。
- ※ 1.正式には参議院議員通常選挙。参議院は衆議院のように解散はなく、常に任期満了(6年)によるもの。ただし、参議院議員は3年ごとに半数が入れ替わるよう憲法で定められており、3年に1回、定数の半分を選ぶことになる。参議院議員の定数は248人で、うち100人が比例代表選出議員、148人が選挙区選出議員
- ※ 2.正式には衆議院議員総選挙。衆議院議員の全員を選ぶために行われる。小選挙区選挙と比例代表選挙が同じ投票日に行われる。総選挙は、衆議院議員の任期満了(4年)によるものと、衆議院の解散によって行われるものの2つに分けられる。衆議院議員の定数は465人で、うち289人が小選挙区選出議員、176人が比例代表選出議員となる
そのような状況下、「若者の投票率を上げることで、若者の声を政治に届けたい」という思いから、学生団体ivote(アイ・ヴォート)(外部リンク)では、各地の中学校や高等学校での出前授業や模擬選挙をはじめ、さまざまな活動を行っている。今回は同団体のメンバーに、若者が選挙に参加する意味、同世代へ伝えたい思いを伺った。
「投票」は政治、社会とつながる最も簡単な手段
「若者と政治のキョリ」を近づけることを目的に、2008年に創設された学生団体ivote。学生のみで運営し、全国各地の学校で主権者教育(※)の出前授業や選挙のプロセスを体験する模擬選挙を行うなど、10~20代の若者に政治を身近に感じてもらうための活動を展開している。これまでには、立候補者による公開討論会や、国会議員と20代の若者が居酒屋でディスカッションする「居酒屋ivote」など、ユニークなイベントも開催し、話題を集めた。
- ※ 国や社会の問題を自ら考え行動し、主体的に有権者として政治に参加する「民主主義の担い手」を育成するための教育
創設から14年目を迎え、現在(2022年6月時点)メンバーは11名。所属する大学も学部も違う若者たちがivoteに参加した理由はさまざまだ。

「ivoteの存在は中学生の頃から知っていて、以前から若者の投票率の低さや、若者が政治を敬遠していることに対しても違和感がありました。大学生になり友人と社会問題について話しているうちに『自分も何か役に立ちたい』という思いが強くなり、ivoteを思い出し、これだ!と加入しました」
そう語るのは、現在代表を務める東京大学法学部3年生の丹羽智大(にわ・ともひろ)さん。

大妻女子大学文学部2年生の押野蒼依(おしの・あおい)さんは、初めて投票権を得た2021年の衆院選を機に加入した。
「いざ投票へ行こうと思った時に、どの政党に投票をすればいいのか全然分からなくて。いろいろ検索していたらivoteがTwitterで発信していた『政策まとめ』を見つけたんです。ちょうど同じタイミングで、大学の先生からもivoteのことを教えていただいて、活動に参加したいと思ったんです」

今回の参議院選挙においてもivoteでは、各政党の政策を分かりやすく簡潔にまとめた「各政党の約束」を、Twitter(外部リンク)を中心に発信している。


2022年3月に加入したばかりという、慶応義塾大学法学部2年生の荒川凛太朗(あらかわ・りんたろう)さんは「これまで外に向けて発信する活動をしたことがなく、特にこの数年はコロナ禍で何もできませんでした。何かやってみたいけれど、何ができるだろうと考えた時に、もともと政治には興味があったこともあり、ivoteの活動に興味を持ちました」と参加の理由を語る。

大学生になる前から加入を考えていたと話すのは、日本大学法学部1年生の高橋絢(たかはし・しゅん)さん。
「2021年公開された政治家のドキュメンタリー映画でivoteの活動が紹介されていて、僕も大学に入学したらぜひ参加したいと思っていました」

一方で、「特に選挙には関心がなく、大学で政治学を専攻しているからという理由でivoteに参加しました(笑)。活動を始めてから少しずつ、若者が参加しない選挙のままではいけないと意識が変わっていきました」と話す、副代表を務める國學院大學法学部3年生の青木花連(あおき・かれん)さんのように、はじめから選挙に関心が高かったメンバーばかりではないという。

「いましかできないことをやりたいと思った」と話すのは、東洋大学経済学部3年生の黒澤瑛史(くろさわ・えいし)さん。
「入学した年にコロナ禍に入ってしまってサークル活動も何もできなくて。学生だからこそできることはないかと考えました。そんな時に高校時代に体験した模擬選挙を思い出し、自分もやってみたいという思いから、模擬選挙を実施している学生団体を探してivoteにたどり着きました」

ivoteが実施する模擬選挙は、実際に行われた選挙などを題材に架空の政党や立候補者を立て、それぞれが政策を掲げて立会演説会などを行い、本物の投票箱を使って中学生や高校生たちに投票してもらう。
例えば、ロシアによるウクライナ軍事侵攻のニュースが連日報じられる中、憲法9条(※)の改正に焦点を当てるなど、なるべく身近な社会問題を政策の題材に取り上げることで、多くの若者が感じている「政治って、選挙ってよく分からない」という思いを払拭し、「投票」を通じて政治とつながるきっかけにしたいという。
- ※ 日本国憲法の条文の一つで、戦争の放棄と戦力の不保持を定めた条項

同世代と話す中で感じる「何も変わらない」という諦め
2021年の衆議院選挙の際、ivoteではTwitterなどSNSを通じて「性犯罪」や「コロナ対策」などのテーマに対する各政党の考えを「政策まとめ」として発信したほか、特設サイト「衆院選2021 for Students #学生の声も届けよう」(外部リンク)を立ち上げ、選挙に参加する意味やその大切さを訴えた。
「選挙戦期間中は、同じように選挙を盛り上げる活動している人たちのエネルギーもたくさん感じていて、これはいい方向に影響するのではと期待していたのですが……。蓋を開けてみたら20代の有権者の6割前後が選挙権を放棄しているという現実を突きつけられ、改めて若者と政治の距離を近づけなければ!という思いが強くなりました」と丹羽さん。
青木さんは、選挙に参加しなかった若者の考えを知りたいと、衆議院選挙後に東京・渋谷で街頭調査を実施。多くの若者が「どうせ自分が1票を投じたところで何も変わらない」と諦めていると感じたという。

「僕たち若い世代が投票に行かなかったことで、政治家の方々に『興味がないんだから、若者のための政策は必要ないだろう』と思われでもしたら大変。確かに、自分が投票したことですぐに変化はないかもしれないけれど、自分たちの未来のためにも、選挙を通じて『僕たちは常に目を光らせている』と意思表示を続けていく必要があると思います」と荒川さんは強く訴えかける。
黒澤さんも「いつか自分の生活に不利になるような政策が出てきたときに、自信を持って意見を言うためにも、選挙に参加することはとても大切なんです」と続く。

「自分たちの声は届くと信じて、声を上げてみてほしい」と、言葉に力を込める青木さん。
「私は思っていることを言葉で伝えるのが苦手だったんですが、高校3年生の時、肝心な部分をオブラートに包むような学校の性教育の教え方に疑問を感じて嘆願書を提出したところ、先生方が受け止めてくれて、授業内容が見直されたされたという経験をしました。出前授業ではこうした成功体験と共に、中高生たちに声を上げることを諦めないでほしいと伝えています」
政治や、今ある「社会のルール」に対して違和感を持ちながらも、意見することを諦めている若者たちの心に、ivoteの言葉はどのように響いたのだろうか。
出前授業を受けた多くの中高生から前向きな感想が寄せられている。
「今まで投票って、どこか難しそうな印象があったのですが、数分で終わって少しあっけにとられたというか。こんなに簡単だったら、二の足を踏むことじゃないなと思いました」
「政治や選挙は難しいものだと思っていましたが、自分の意思表示をするもので重要だけど、気軽に行けるものなんだと感じました」
「18歳になったら、ちゃんと選挙に行こうと思いました。政治を任せられる人を、自分でちゃんと選ばないと後悔すると思いました」
政治や選挙に対する意識は改善され身近に感じると共に、興味関心は確実に高まったようだ。
自分たちの声を「投票」を通じて政治に届けよう
来たる参議院選挙に向けて、投票の参考となる各政党の政策まとめを発信しているほかに、東京お茶の水・秋葉原・渋谷の3カ所で街を歩く10代~20代を対象に「参院選2022認知度&意識調査」(外部リンク)を行った。すると6割近くが選挙に行かないという残念な結果に。

「街頭調査では『参院選があることを知っていますか?』と『投票に行くつもりですか?』の2つの質問を投げかけ、行かない方にはその理由も伺いました。そもそも『選挙に関心がない』『面倒くさい』といった理由が多かったのですが、『投票日は忙しい』『予定が入るかもしれないから行かない』と答えた方には、不在者投票や期日前投票について案内しました。数は少ないですが、この出会いが選挙を意識したり、投票に行ってみようかなと思うきっかけになればうれしいですね」と丹羽さん。

選挙へ行くことの意味について、改めて同世代の若者へ向けて、思い思いのメッセージを語ってもらった。
丹羽さん「投票に行っても何も変わらないかもしれない。でも、僕たちの意思は投票率として数値化されます。投票した候補者が落選したとしても、その数値は候補者にとっては力になりますし、当選者にとっても対立候補の数値として大きな意味を持ちます。自分の1票が持つ力を見つけてもらえたらうれしいですね」
黒澤さん「せっかく与えられている権利があるのだから、ぜひ選挙に行ってほしい。周りの意見に流されることなく、自分の意思で投票先を選んで大切な1票を投じてもらえたらと思います」
青木さん「私が伝えたいのは、社会問題に対してもっと自分の意見を持ってほしいということです。投票は社会についてあれこれ感じていることをアウトプットする機会であり、アウトプットするためには、日頃から政治や政党の方針をインプットしておくことが大切です。ぜひ投票日までの期間に、社会問題について調べるところからでも始めてもらえたら」
高橋さん「日本は王様が支配しているわけではなく、一人一人の意見をもとにつくられている民主主義の国ということを自覚することが大事だと思います。僕は子どもの頃から、近所に住んでいたおばあちゃんに『昔は選挙権がなかった。今やっとその権利が得られたんだから、使わないとね』と言われてきました。若い世代にとって、その権利がどんな風に反映されているか、自分たちの声は届くんだよということを僕たちの活動を通じて伝えていきたいと思います」
荒川さん「いざ選挙となると、さまざまな分野で争点が語られていて、ちょっと難しいかもしれませんが、僕たちが発信する情報なども参考にしてもらい、まずは自分が理解できるもの、関心があることを入口に、興味を持ってほしいと思います」
押野さん「とりあえず投票に行ってみることが大事だと思っています。一度でも投票することで、もっと考えるきっかけになるのではないでしょうか。投票は簡単だし、時間もかかりません。ぜひ、投票しましょう!」
2015年の公職選挙法の改正により20歳以上から18歳以上に引き下げられた選挙権年齢(外部リンク)は、若い世代の声を政治や社会に反映するために実施されたものだ。
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もしあるなら、その社会問題がもたらす未来を想像してみてほしい。「自分の未来は自分でつくる」。選挙はその思いを形にするための、最も身近な政治参加の方法なのだ。
撮影:十河英三郎
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。