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求む若者。骨髄ドナー登録って気軽にできる? どんな仕組み? 日本骨髄バンクに聞いてみた

- 骨髄バンクとは、骨髄移植を希望する患者とドナーをつなぐ公的事業
- ドナーと適合する確率は数百分の1から数万分の1。適合しても辞退するドナーは多い
- ドナー登録だけでなく、ドナー希望者を支えるなど、命を救う行動はたくさんある
取材:日本財団ジャーナル編集部
白血病をはじめとする血液疾患の患者に有効な治療となるのが、骨髄や末梢血幹細胞(まっしょうけつかんさいぼう※1)を通して造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう※2)を移植する治療法です。ただし、この移植を行うには、患者とドナー(※3)の白血球の型(HLA型)が適合する必要(※4)があります。
- ※ 1.血液中に流れ出した造血幹細胞(下記※2)
- ※ 2.主に骨髄や末梢血幹細胞に存在する、赤血球・白血球・リンパ球などの血液細胞のもととなる細胞
- ※ 3.提供者。骨髄バンクにおいては造血幹細胞を提供する人のこと
- ※ 4.完全一致が望ましいが、一部不一致の場合でも移植が行われる場合がある

造血幹細胞移植が必要な患者と、それを提供するドナーをつないでいるのが骨髄バンクです。死亡後の臓器提供と同じように捉えている人もいるかもしれませんが、骨髄や末梢血幹細胞の提供は献血と同じく、生きながらにして行える「命をつなぐボランティア」です。
そんな骨髄バンクですが、10年以内に22万人以上のドナー登録者が、年齢制限を理由に取り消しになる見込みで、30代以下の若年層の登録を増やすことが大きな課題となっています。
今回、骨髄バンクの仕組みや、登録方法、提供の流れを日本骨髄バンク(外部リンク)の事務局長であり、広報渉外部長である小川みどり(おがわ・みどり)さん、広報渉外部広報チームの主査である鈴木慶太(すずき・けいた)さんに伺いました。
ドナーが適合する確立は数百分の1から数万分の1
――まずは、骨髄バンクの仕組みについて教えてください。
小川さん(以下、敬称略):白血病などの血液疾患のために、造血幹細胞移植が必要な患者さんと、それを提供するドナーをつなぎ、コーディネート(調整)するための公的事業となっています。
移植の際には、HLA型という白血球の型が適合したドナーを探す必要があるんです。

――骨髄バンクには患者としての登録者と、ドナーとしての登録者がいるということですね。白血病などの患者さんは、骨髄バンクを通じた移植しか治療方法はないのでしょうか?
小川:抗がん剤などで治らなかった場合に、造血幹細胞移植を検討するのですが、まずは適合の可能性が高いきょうだい間移植を、場合によっては親子間での移植を検討します。
移植が必要なのに血縁関係者との移植ができなかった場合に、初めて患者さんは骨髄バンクに登録するんです。
――移植の際、血縁関係があった方が適合しやすいということでしょうか?
鈴木さん(以下、敬称略):きょうだい間であれば、ですね。HLA型というものは両親から受け継ぐものなので、きょうだい間であれば、25パーセントの確率でHLA型が完全一致します。

鈴木:親子間でHLA型が完全一致することはほとんどありません。ただ、必ず半分は一致するので、半合致移植というものも最近は増えています。
――患者としての登録者、またドナー登録者はどれくらいいるのでしょうか?
小川:2022年度末の時点では、患者登録者数が1,734人、ドナー登録者数は約54万人でした。変動はありますが、常に2,000人近くの方がドナーを探していることになります。
ドナー登録者は数だけ見ると多く感じられるかもしれませんが、適合の確率がかなり低いことと、また適合しても連絡がつかない、仕事や家庭などの都合がつかないといった理由で辞退される方が多いんです。
仮に適合するドナーが10人いたとしても、最初の段階で半分以下になってしまいます。

――なるほど。適合する人がいても、なかなか進まないと……。
小川:はい。またもう1つ深刻な問題なのが、若年層のドナー登録者がとても少ないことです。46~50歳のドナーが最も多く、全体の4分の1弱を占めています。

小川:日本のドナー登録は54歳以下限定となりますので、これから毎年2万人くらいが減っていきます。10年以内に22万人以上がドナー登録者から外れるということが分かっています。
30代以下の新規ドナー登録者は毎年約2万人いらっしゃいますが、それでは足りないんです。毎年3万人は必要です。そうでないと、患者さんの移植できる機会がもっと減ることになってしまいます。
――世界的に見て、日本の登録率というのは低いのでしょうか?
小川:低いですね。日本の登録率は人口の1パーセント未満です。海外ではもう少し高くて、例えばドイツだと登録率は人口の10パーセントほどです(※)。
- ※ 国によりドナー登録可能な条件は異なる
――ドイツの登録率が高い理由は?
小川:ドイツだけでなく、欧米の国ではボランティアに対する意識が高いということが言えると思います。また、患者さんもはっきりと「私はこんなに困っている」と表明している印象です。
「助けを求めやすい文化や国民性だから」と、言えるのではないでしょうか。
――なるほど、文化的な背景や国民性が影響しているわけですね。
鈴木:そうですね。もう1つの理由としては、日本ではドナー登録する際、献血の会場に行かないといけないんです。これは世界から見ると珍しいケースで、海外では「スワブ」といって大きめの綿棒のようなもので、頬の内側をこすってポストに投函するだけで登録ができます。
このような登録方法が日本でも可能になるよう、日本骨髄バンクでも導入に向けて動き出したところです。

――骨髄バンクがどんなものか分からず、「ドナー登録するにも手術が必要」みたいな誤ったイメージで敬遠している人もいそうですね。
鈴木:そうですね。名前は聞いたことがあっても、詳しい内容は分からない、臓器移植とごっちゃになっている、脊髄と勘違いしているという人もいます。
以前はテレビCMの効果が高く、ある程度認知されていたのですが、今はメディアが多岐にわたり、人によってよく見る媒体が異なるため、骨髄バンクの活動を知ってもらうのが難しくなってきました。
今後はSNS戦略などを積極的に行いながら認知度を上げていきたいと思っています。

家族同伴の面談で、慎重に意思確認。提供の流れ
――日本で登録する場合は、献血会場に行かないといけないということですが、具体的な登録方法について教えてください。
小川:健康状態の要件を満たしていれば、献血会場で2ミリリットルの血液を採取するだけで登録が完了します。特に予約の必要はなく、受付時間内に献血の会場に来ていただければ、15分程度で登録することができます。


――ドナー登録後、骨髄の提供まではどのような流れになるのでしょうか?
小川:患者さんのHLA型と適合した場合、ドナー候補者となった通知をお送りしています。通知後、すぐに提供となるわけではなく、確認検査、最終同意面談、健康診断を経てからの提供となります。
提供までの期間は、通知からおよそ3~4カ月ほどですね。
――それぞれ詳しく教えていただけますか。
小川:はい。ドナー候補者となったら、スマートフォンのショートメッセージサービス(SMS)と郵送で通知が届きます。提供の意思がある場合、後日1~2時間前後の確認検査を受けていただきます。ここで詳しい説明と医師による問診と採血を行います。
ドナー候補者は通常複数人おりまして、この確認検査の結果などから最終的に選ばれたドナーに、意思の確認を行う最終同意面談というものが行われます。

――最終同意面談ではどのようなことを行うのでしょうか?
小川:ドナー本人、ドナー家族、立会人(※1)、医師、コーディネーター(※2)の5者が集まり、医師からの説明の後、ドナー本人とその家族から同意書に署名、捺印をしていただき、最終意思の確認とします。
ご家族に同席してもらうのは、提供には数日間の入院など、ご家族の方の理解や協力が必要になってくるためです。
- ※ 1 .第三者の視点から本当に自分の意思で同意しているかを確認する役割
- ※ 2.患者とドナーとの連絡調整を行う役割。日本骨髄バンクの委嘱を受け活動している
鈴木:患者さんは移植の前に、放射線照射などで自分の造血幹細胞を破壊するという準備が必要です。その後に、ドナーが「やっぱり提供できない」ということになると、患者さんの命に関わる事態にも発展しかねません。
そうならないためにも、家族の方にも同席していただき、協力してもらえるかどうかの同意を得ることがとても重要になります。
――その後、提供という流れになるわけですね。
小川:はい。提供方法には2種類あり、1つは骨髄提供、もう1つは末梢血幹細胞提供になります。
骨髄提供は全身麻酔を行い、骨盤付近にある腸骨(ちょうこつ)から注射器で骨髄液を吸引する方法です。
末梢血幹細胞提供は、白血球を増やす薬を注射し、血液に流れ出した造血幹細胞を専用の機器を使って採取する方法です。
骨髄提供の場合は4日ほど、末梢血幹細胞提供の場合は5〜7日ほどの入院が必要になります。

――提供の際、リスクなどはあるのでしょうか?
小川:日本では骨髄バンクにおける死亡例は1件もありません。ただ後遺症が残ってしまうという方は一部いらっしゃいます。
適合したドナーさん全員にお渡ししている冊子には、これまでに後遺症が起きてしまったケースとその対策について全て掲載しており、確認していただけるようになっています。また健康被害が起きた場合の補償制度もあります。
ちょっとした行動で、救える命がある
――ドナー登録者を増やしていくために、読者一人一人ができることを教えてください。
小川:ドナー登録をしていただけるのはもちろんありがたいのですが、それ以外のちょっとした行動でも誰かの命をつなぐ大きな助けになるということを知っていただき、実践してもらえたらうれしいです。
現在、骨髄バンクやドナーへの理解や支援を広げるための「#つなげプロジェクトオレンジ」(外部リンク)というプロジェクトを行っており、ウェブサイトではドナー登録以外にもできるちょっとした行動についてご紹介しています。

――ちょっとした行動とは?
小川:例えばSNSで情報をシェアしたり、お子さんと一緒に骨髄バンクや移植について描かれた絵本を読んでみる、などでしょうか。
また、ドナーを希望する方がいても、入院期間や通院の都合がつかず提供を断念する方がいることは先ほどお話ししましたが、そういった方が提供しやすいよう、ドナー休暇制度・公欠制度の導入を各企業様・団体様・学校様にお願いしています。
ドナーとなった場合、10日ほど医療施設にお越しいただく必要があるのですが、会社がドナー休暇を特別休暇として認めていただければ、わざわざ有給休暇を使用する必要がなく、ドナーも安心して休めるでしょう。
現在、大学での公欠制度も含めると、約800の企業・団体様・学校様に導入していただいております。
これまでお話ししたような行動の一つ一つが、患者さんの命を救うことにつながると、ぜひ知っていただければと思います。

編集後記
骨髄提供という響きだけ聞くと怖いイメージがありましたが、詳しく説明を伺うことで、誰かの命を救うとても大きな意義のある行動だと理解ができました。骨髄バンク登録は18歳から。そしてドナー登録以外にも、体験談を読む、寄付をするなど患者さんを救う方法がたくさんあります。つなげプロジェクトオレンジのサイトを見て、行動につなげてみてください。
関連イベント「東京雪祭」開催のお知らせ
2023年11月11日と12日、東京・代々木公園イベント広場にて「東京雪祭」(外部リンク)を開催します。普段献血ルームに足を運ばない若者に献血・骨髄バンクを知り、行動を起こしてもらうきっかけの場です。
1人でも多くの患者さんが治療のスタートラインに立てるよう、皆さんでお手伝いしませんか

日本骨髄バンク 公式サイト(外部リンク)
#つなげプロジェクトオレンジ 公式サイト(外部リンク)
東京雪祭 公式サイト(外部リンク)
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。