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【復旧期】能登半島地震の発生から半年。被災地での救助技術研修会に参加した消防士たちの志

- 2024年6月10日、石川県珠洲市にて消防士を対象とした救助技術研修会が開催された
- 能登半島地震の教訓を生かすために、倒壊した木造家屋を使った実地訓練を実施
- 消防士同士や災害ボランティアとのつながりを築くことで、多くの命が救える
取材:日本財団ジャーナル編集部
2024年1月1日に能登半島で発生した「令和6年能登半島地震」。最大震度7を記録したこの大災害では、全壊家屋8,408棟を含む住宅被害が12万5,976棟にも上り、災害関連死を含む260人の尊い命が奪われるなど(※)、被災地に甚大な被害をもたらしました。
- ※ ※2024年6月25日時点。出典:内閣府・非常災害対策本部「令和6年能登半島地震に係る被害状況等について」(外部リンク/PDF)
日本財団では、発災時から継続的に被災地での災害支援(別タブで開く)を行ってきました。
なかでも技術系ボランティア団体「DRT-JAPAN(ディーアールティージャパン)」(外部リンク)と連携を強化し、道路啓開(※)や倒壊建物の二次災害対応、行方不明者の捜索など、多岐にわたる支援を展開しています。
- ※ 大規模災害に、緊急車両等の通行のため早急に最低限のがれき処理を行い、簡易な段差修正等により救援ルートを開けること
そして6月10日・11日には、全国の消防士を対象に発災直後を想定した救助技術研修会を開催。所有者の許可のもと倒壊した木造家屋を使った、いち早く人命を救うための実地訓練を行いました。
今記事ではその様子と共に、参加した消防士たちのそれぞれの思い、防災における志について話を伺いました。
災害現場における人命救助に役立つ「生きた学び」
6月10日の朝、石川県珠洲市にある蛸島(たこじま)漁港に40人近くの消防士たちが集まりました。DRT-JAPANと日本財団の主催による救助技術研修会に参加するためです。
この日は、能登半島で活動する地元の消防士から富山や愛知、京都、大阪など、西日本地区で活動する消防士が参加。彼らに共通するのは、「被災者の命を救いたい」という思い。そのために、災害発災時に役立つ「生きた」救助技術を身につけようと、高い志を持って臨んだ面々ばかりです。

午前中は、バールやチェーンソー、ジャッキといった災害時に活躍する機材の説明が行われました。
倒壊した建物に閉じ込められた人を救出するための正しい扱い方や、いざというときにすぐに使えるよう普段のメンテナンスの方法なども伝授。また素早く救助活動を行う上で知っておくべき基本的な木造建築の構造の説明も。さまざまな災害現場で支援活動に取り組んできた日本財団の職員やDRT-JAPANの重みのある言葉に、消防士たちは真剣な眼差しで耳を傾けます。


そして午後からは、いよいよ倒壊した木造家屋を使った実地訓練がスタート。ジャッキを使って建物を持ち上げる方法や、チェーンソーによる木材の解体方法、バールを用いた建物への進入方法のほか、建物の倒壊危険性を示す兆候といった作業時の安全確保に欠かせない知識も学んでいきます。
実際に倒壊した木造家屋を前にすると、1つとして同じものはないことが分かります。だからこそ、教科書で学ぶのではなく、実地訓練で経験値を積み重ねていくことが重要なのです。
研修会は早朝から夕方まで続きました。それでも参加した消防士たちは疲れを一切見せません。誰かの命を救うべく、自らの技術向上に邁進している姿はとても頼もしく、災害救援体制の発展に向けた兆しが垣間見えるようでした。


消防士が到着するまでに、自分たちでもできることを
ここからは研修会に参加した消防士の皆さんにお話を伺います。
まずは被害の大きかった輪島市にある奥能登広域圏事務組合消防本部に所属する、政田(まさだ)さん、山下(やました)さん、弥田(よだ)さんが取材に応じてくれました。
――被災地で救助活動を行う皆さんから見て、今回、どのような問題点が浮き彫りになりましたか?
政田さん(以下、敬称略):発災時、ちょうど休みの日だったので家族と一緒にいたんです。ものすごい揺れの後、家族の安全確認をしてから、すぐに消防署へ向かうことにしました。
でも、寸断されている道路が多くて所属する消防署へ行くことができず、ひとまず最寄りの消防署へ行くことにしました。結局、勤務する消防署へ行けたのは数日後のこと。道路の寸断によって移動が困難になるという問題にぶつかりましたね。

山下さん(以下、敬称略):2023年11月に、中部ブロックの緊急消防援助隊の訓練が能登町で開催されました。でも、その訓練で想定していた道路の状況よりも実際のそれはかなり酷いもので……。もちろん、訓練したことを生かせた部分もありますが、やはり災害時には想定外の被害に見舞われてしまうものだと身をもって体験しました。

――今回の研修会に参加してみて、いかがでしたか?
政田:実は、このような実践的な研修会に参加したのは二度目になるんですが、一度目の時に発災時を想定した実地訓練の重要性を痛感したので再び参加しました。発災時にどんな機材が必要なのか、改めて消防署内でも共有したいと思いました。
弥田さん(以下、敬称略):普段の訓練ではなかなか学べないことが多く、こうして実際に被災した建物を使って研修させていただけるのは非常に勉強になります。

山下:もちろん能登半島地震のような大規模災害は起きないに越したことはないですが、こうして経験値を積むことで次の災害にしっかり備えたいと思います。
日本ではまだまだ木造家屋が多いので、その構造をしっかり学び直す必要性も感じました。
――能登半島地震の被災地で活動する消防士の立場から、読者に伝えたいことはありますか?
政田:一般の人でもやはり基本的な救助の知識は身につけておいて損はないのかな、と思います。もちろん、災害時には自分たちのような公的機関を頼ってもらいたいですが、一方で、個人でもできることを学んでおく。そうしていざというときに周りの人と助け合える環境をつくっておいていただきたいですね。
弥田:私たちが管轄する地域では倒壊した建物が多かったのですが、実際に住民の方々が協力し合って、救助活動もされていました。それはとても大事なことだと思います。
私たち消防士が現場に到着するまでの間に、自分たちに何ができるのかを考えていただけると、より多くの命が救われるはずですから。
知識や技術をアップデートして、組織全体の対応力を上げたい
続いて取材に応じてくれたのは、県外から足を運んだ消防士の皆さん。京都市消防局に勤務する植木(うえき)さん、北澤(きたざわ)さんに話を伺いました。
――お2人がこの研修会に参加した理由を教えてください。
植木さん(以下、敬称略):能登半島地震が発生して半月ほど経過してから、被災地の土砂災害対応として派遣されたんです。でも、実際に倒壊した家屋を見た時に、「もしもいま、ここに要救助者が取り残されていたとしたら、自分に何ができるだろう」と考えてしまいました。
これまで震災に対する訓練も少なかったですし、自分の経験や知識だけでは対応できないなと痛感して。それを変えるためにも、こうして研修会に参加させていただきました。

北澤さん(以下、敬称略):私も一緒です。これから大きな地震が起こるだろうと言われている中で、自分が機材を使って救助活動ができるのかと問われると、うまくイメージできなかった。
だから今回、少しでも吸収できるものがあれば、と思って参加しました。

――実際に参加してみて、いかがでしたか?
植木:機材の使い方ひとつとっても、いままでの自分のやり方に間違いがあったと理解できたのはよかったですね。
北澤:狭い社会の中で、先輩から教わったことをずっと正しいと思い込んできた部分があるんです。でも、こうして外部の研修会に参加したことで、常に技術もアップデートしていかなくてはけないことに気づくことができました。
植木:一度の研修会に参加しただけでは災害対応スキルも上がらないと思うので、今後も継続的に参加したい。加えて、今回は参加できなかった周囲の消防士にも知識を共有して、組織全体の対応力の向上に努めていきたいと思います。
北澤:継続的に知識や技術をインプットして、自分たちの組織にも還元する。それが人命を守る消防士として活動する中で重要だと感じています。
技術系ボランティアと消防士が連携することの大切さ
最後に、今回の研修会を主導したDRT-JAPANの加藤(かとう)さんにもお話を伺います。加藤さんは能登半島地震が発生してすぐ現地入りし、以降、支援の現場でリーダー的役割を担ってこられました。
――今回、研修会を開いた理由を教えてください。
加藤さん(以下、敬称略):普段、DRT- JAPANの一員として災害ボランティアをしていて感じるんですが、現場の消防士さんの存在はとても大きいんです。同時に、消防士さんたちが自分たちのスキルを向上させたいという思いも伝わってきます。
だからこうして消防士の皆さんに向けた研修会を実施することによって、災害時に私たちと連携が取りやすくなれば、というのも目的の1つです。そうすれば支援活動の範囲も広がっていきますし、何より助けられる人命の数も増えていくと考えています。

――加藤さんから見て、能登半島地震における支援課題はなんだと思いますか?
加藤:挙げれば切りがありませんが、強いて言えば消防士や自衛隊員の皆さんが使っている車両が大き過ぎることでしょうか。
大規模災害時には道路が寸断されたり、がれきが道に溢れてしまったりして、狭い道を通らざるを得ないことも多いんです。大型車両では入っていけないので、活動ができないという状況に陥ってしまう。
私たちが小型重機で道路を切り開いて、やっと消防士や自衛隊の皆さんが通れるようになったことも多々あったので、今後は車両の小型化も検討していく余地があるかと思います。
また、災害現場に来られる消防士さんたちからは、いつも高い士気や使命感のようなものを感じます。だから、皆さんの力をもっと生かせる環境を国や自治体で整えてあげてほしい、とも思います。例えばチェーンソーやジャッキといった機材を揃え、ちゃんと使えるように訓練するだけでも、災害現場は変わると思います。


――そういったやる気のある消防士の皆さんを対象に研修会を行うことで、全体的な災害対応スキルの向上にもつながりますね。
加藤:消防士さんたちも日頃から訓練をされていますし、それを否定するつもりはありません。ただ、被災地で倒壊した家屋を使って実地訓練を行うことには、大きな意味があり、それが災害対応スキルを上げる最短の道だと思うんです。
それに、研修会で消防士さん同士が顔見知りになることで、災害時の連携しやすさも変わってくるはずです。現場で「あの研修会で会った人だ!」と思えば、安心感も生まれますよね。だから、日本全国でこうした機会をつくっていくことが重要だと考えています。
――復興の現場から読者の皆さんに伝えたいこと、知ってもらいたいことはありますか?
加藤:避難所や仮設住宅で暮らしている被災地の皆さんの中には、これからもこの地で生きていくという覚悟を決めていらっしゃる方も多いんです。そういう方たちのために、私たち一人一人に何ができるのかを自分事として考えてもらいたいですね。
もちろん、1人でできることは限られてしまいます。でも、それぞれにきっと得意分野があるはずです。例えば、お話しすることが得意であれば、それだって被災地の役に立つ。被災地の皆さんを集めて何かイベントを開催すれば、それが大きな励みになって、心を明るくすることもできる。
復興支援は、そういった一人一人ができることの積み重ねだと思うんです。そのためにも、まずは人と人とがつながっていくことが大事。人が集まれば、何かできるかもしれない。それが足がかりとなって、被災地の皆さんの心の復興を早めていけたらいいな、と思います。
編集後記
1人でも多くの命を救いたい——救助技術研修会に参加した消防士の皆さんから、そういった強い思いを感じました。それは復興への希望であり、彼らの存在によって、私たちの安全が守られるということです。
一方で、彼らに頼るだけでなく、私たち一人一人も災害救助に対する基本的な知識を身につけておく必要性も感じます。「明日は我が身」という言葉があるように、地震大国でもある日本に暮らす私たちにとって、災害は決して他人事ではないのですから。
撮影:十河英三郎
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。