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増加する「おひとりさま高齢者」。いま注目される「高齢者シェアハウス」とは?

- 1人暮らしの高齢者が増加。社会からの孤立、孤独死が問題に
- 「シェアハウス・さっちゃんち」は、自由を重んじ、人生の最期まで自分らしく過ごせる介護付き高齢者シェアハウス
- 高齢者シェアハウスが普及するためには、国や地域、一人一人が「老い」について理解を深めることが重要
取材:日本財団ジャーナル編集部
2022年の国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、50年後には、総人口は現在の7割まで減少し、65 歳以上の人口がおよそ4割を占めるとされています。
また、2024年の国立社会保障・人口問題研究所の調査(外部リンク)では50歳時の未婚割合は男性で28.25パーセント、女性で17.81パーセント。この数値は増加傾向にあり、65歳以上の1人暮らし、いわゆる「シングル高齢者」が増えることが予測されています。
シングル高齢者には「知らぬ間に認知症が発症・進行する」「社会からの孤立」「生活意欲の低下」「詐欺(さぎ)など犯罪に狙われやすい」「孤独死」など、さまざまなリスクがあるとして問題となっています。
こうした背景を受け、近年話題になっているのが「高齢者シェアハウス」です。文字通り、複数人の高齢者がひとつ屋根の下で共同生活を送る住宅のことで、全国各地に相次いでオープンしています。
今回、山梨県大月市で高齢者ホスピス「シェアハウス・さっちゃんち」(以下、さっちゃんち)を運営する特定非営利活動法人ラクーダ(外部リンク)の代表理事・関戸元彦(せきど・もとひこ)さんに、実際にシェアハウスで生活している利用者の暮らしや、共同生活によるメリット、問題や課題などについてお話を伺いました。
自分が「ここで老後を過ごしたい」と思える場所をつくりたかった
――施設名にもあるように、メットライフ生命と日本財団が支援する「高齢者・子どもの豊かな居場所プログラム」(別タブで開く)の一環として「さっちゃんち」が設立されたとのことですが、改めて経緯について教えてください。
関戸さん(以下、敬称略):「さっちゃんち」があるのは、山梨県大月市の猿橋町(さるはしちょう)という田舎町で、他の地域と同じようにたくさんの高齢者が暮らしています。地域の高齢者を対象に行ったアンケートによると、「人生の最終章をどこで迎えたいか?」という問いに対して、8割の人は「自宅」と回答したのですが、実際は自宅で介護をする余裕がないご家族が多く、病院や入所施設などで迎えることがほとんどです。
また、地方は都心と違って入所施設の種類や選択肢が少なく、多くの高齢者は市街地から少し離れた場所にある施設に入所せざるを得ません。

関戸:私は2018年にNPO法人を立ち上げ、小規模多機能型居宅介護(※)事業所「ナーシングホーム猿橋」の設立をきっかけにそういった介護の実情について知ったのですが、「いずれ自分も現役を引退したら、あの場所に行くんだろうか……。あの場所は、人生の最期を迎えるのにふさわしい場所といえるんだろうか」と考えるようになりました。
- ※ 利用者が可能な限り自立した日常生活を送ることができるよう、利用者の選択に応じて、施設への「通い」を中心として、短期間の「宿泊」や利用者の自宅への「訪問」を組み合わせ、家庭的な環境と地域住民との交流のもとで日常生活上の支援や機能訓練を行う介護

関戸:さらに「ナーシングホーム猿橋」を運営する中で、利用者の方のニーズも徐々に変化し、次の選択肢を探す際に「この施設の雰囲気の中で、人生の最終章を迎えたい」という声もいただくようになったんです。
市街地から少し離れた場所ではなく、日常生活と継続性がある入所施設をつくれないかと考えていた時に、日本財団のプログラムを知り、「さっちゃんち」の設立が叶いました。
――「さっちゃんち」という名称の由来は?
関戸:施設長の名前が「さちこ」なんです(笑)。親しみを持ってもらうと同時に、施設長自身にも「ここは私の家なんだ」と気持ちに張り合いが出るのではと名付けました。

――利用者の方はまさに“さっちゃんち”で生活をされているんですね。そもそも「高齢者シェアハウス」とは、どんな施設なのでしょうか?
関戸:明確な定義があるわけじゃないんです。「さっちゃんち」の場合ですと、1人1部屋の個室が7つと共有スペースがあり、縁側を通じて隣接する「ナーシングホーム猿橋」と行き来できるようになっています。看護師が常駐しており、24時間365日体制で一人一人に合わせた介護や医療ケアを受けることができ、人生の最期を迎えるまで行う、いわゆる「みとり介護」にも対応しています。

――最期まで過ごせる医療体制が整っているから「高齢者ホスピス」ともうたっているのですね。
関戸:はい。また、「さっちゃんち」は住み慣れた地域で最期まで安心して過ごせる場所を目指し、“施設っぽくない”つくりにこだわりました。また、地域の子どもたちともコミュニケーションが図れるよう、通学路に面したところに広いベランダも設置しています。

関戸:その他、人手不足とならないよう介護ロボットなどの最新テクノロジーを積極的に導入していて、今年(2024年)の夏には心拍数や居場所などを検知する見守りセンサーの設置が決定しました。高齢者施設というと利用料が高額なイメージがあるかと思いますが、入居費の一部が補助されるため、年金の範囲内で利用できる点も大きな特徴です。

人生最期の締めくくりだからこそ「自由」に過ごしてほしい
――ほかにも「さっちゃんち」が大切にされていることはありますか?
関戸:利用者の皆さんが「自由」であることです。高齢者施設の中には安全性を重視するあまり、厳しいルールや行動制限を設けるなど、徹底的に管理しているケースも少なくなりません。
もちろん、それを否定するわけではありませんが、私たちは「転倒のリスクがあるから座っていてください、寝ていてください」ということは言いません。契約の時には相応のリスクがあることをお伝えしていて、ご家族に「ご自身だったら、どんな場所で人生の最終章を迎えたいですか?」とお話しすると、自由であることを優先されますね。
――利用者の皆さんは普段、どんな風に過ごしているんでしょうか。また、ご家族からはどんな声が寄せられていますか?
関戸:利用者の方々は、特別なことをしているわけではないんですよ。共有スペースに集まってお茶を飲んだり、個室で読書や楽器を演奏したり、隣の「ナーシングホーム猿橋」で過ごしたり……。若者より言葉数は少ないかもしれませんが、一般的なシェアハウスと同じような生活を送っているかと思います。
ご家族の方からは、「(親の介護について)選択肢が増えてうれしい」「市街地に近いから、いつでも会いに行ける」といった声をいただいています。
誰もがいつかは通る道。現実から目を背けないで、向き合うことが大切
――今後もシングル高齢者が増加すると思われ、「さっちゃんち」のような高齢者のためのシェアハウスへのニーズが高まると考えられます。こういった高齢者シェアハウスが普及していくために、どんなことが課題だと思いますか?
関戸:まずは行政の理解ですね。「高齢者シェアハウス」という概念自体がまだまだ珍しく、特に地方では「なんでそんなものが必要なの?」という方が少なくないです。そのため、行政や自治体から支援を得ることがなかなか難しいですね。
シングル高齢者の増加は地域の問題でもありますから、自治体関係者がニーズを理解し、民間と連携して取り組む仕組みづくりが重要だと思います。
また、核家族化が進んだことで、多くの子どもたちはおじいちゃん、おばあちゃんと接する機会が減り、人間が年齢を重ねるとどうなっていくのかを知らないんじゃないでしょうか。だから、「誰でも歳をとると、いろんな病気を抱えたり、認知症になったりすることもあるんだよ」ということを、行政が主体となって伝えてもらいたいなと思います。できれば、教育課程の中でも子どもたちに「老い」とはどんなことかを教えてほしいですね。

関戸:また、これは介護業界全体の話になってしまうんですけど、儲けようと考える悪質な業者がいることも事実です。サービスを提供するほどインセンティブが入る仕組みがあって、そうすると必要のないものまで提供して利益を出そうとする業者もいます。
私たちは「包括報酬」といって、1カ月いくらのいわゆるサブスクリプション制度を採用しているんですけど、悪質な業者が入ってこられないような仕組みづくりも自治体には考えてほしいですね。
――シングル高齢者が過ごしやすい社会であるために、私たち一人一人にはどんなことができるでしょうか?
関戸:高齢者の存在をもっと身近に感じてほしいです。若い人にとっては遠い未来の話で、いつか自分が歳を取るなんて全く想像できないと思いますが、例えば今、「あなたはがんです」と余命宣告をされたら、命の大切さや、残りの人生をどんなふうに生きようか考えると思います。
どんな人も、長く生きていれば必ず歳を取ります。身近にいる高齢者の方たちとコミュニケーションを取って、自分だったらどんなふうに過ごしたいか、どんな場所で最期を迎えたいか、ぜひ想像してみてもらえればうれしいです。
編集後記
内閣府が発表した「令和4年度高齢者の健康に関する調査」(外部リンク)によると、年齢が高くなるほど、健康状態は「良くない」と回答する人の割合が高く、80歳以上では男性で3割、女性で約4割の人に上りました。誰でも年齢を重ねるにつれて各器官や体の機能が弱くなり、耳が聞こえにくくなる、目が見えづらくなるなど、老化によってさまざまな変化が起こります。
一方で、過去1年間にスポーツや地域行事などの社会活動に参加した人が、健康状態が「良い」と回答した割合が高いという結果も出ています。昔と同じようには動けないし、コミュニケーションを取りづらくなるけれど、誰かとおしゃべりしたり、楽しい時間を過ごしたりといったことが心の健康や「生きがい」につながるのは、若い世代にとっても同じなのだと感じました。
高齢者や介護福祉にまつわる課題を考えるとき、「家族や介護者の負担を減らす」「質の高いサービス、医療制度を充実させる」ことに加えて、「どうすれば最期まで幸せに生きられるか」という視点を持つことが大切なのだと感じました。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。