社会福祉協議会が子ども第三の居場所を運営する意義とは。学習・生活支援モデル「藤久保学習室拠点」

埼玉県の南部に位置する三芳町。ここに、2021年、三芳町社会福祉協議会が運営する子ども第三の居場所「藤久保学習室拠点」が誕生しました。
社会福祉協議会は、社会福祉法に基づきすべての都道府県・市町村に設置されている非営利の民間組織です。社会福祉活動を推進することを目的とした営利を目的としない公的な社会福祉法人として、地域社会をより良くするために、福祉サービスや相談活動、募金活動などさまざまな活動を実施しています。今回、どのような背景や目的から、社会福祉協議会として、子ども第三の居場所を運営することに至ったのでしょうか。拠点として活用している精神障害者小規模地位生活支援センターを訪れました。
地域住民の暮らしを守る社会福祉協議会
人口約38,000人。鉄道駅はないながらも、東武・西武・JRが協議会の近くにあり、三芳町はベッドタウンとしても人気です。三芳町社会福祉協議会(以下、社協)は、1986年に設立。以来、地域住民のほか、民生委員・児童委員、社会福祉施設・社会福祉法人等の社会福祉関係者、保健・医療・教育など関係機関の参加・協力のもと、福祉のまちづくりの実現を目指して活動してきました。
子どもの貧困対策として、生活支援や子ども食堂の運営を行い、生活を支える他、コロナ禍においては、収入減少や失業してしまった方々の生活を支える数々の支援を実施してきました。

地域のさまざまな困りごとが集まる社協。「国の制度の有無に関わらず、これまで必要な支援を迅速に届けてきた。」と話すのは、社会福祉士の古賀和美さんです。
2000年代前半、世帯所得による学力格差が地域課題として挙げられるようになったことを機に、学習支援に着手。2006年からは、年2回の学習支援ボランティア養成講座を開催し、ボランティアの数を増やしながら、町内で無料の学習支援教室を開講してきました。
「貧困家庭に育つ子どもが学力で、人生を切り開いていく力をつけてほしい。その一心でした」
小中高生が利用する学習・生活支援モデル
現在、無料の学習支援教室は町内に5箇所にあります。その中の一つ、藤久保学習室拠点が日本財団の子ども第三の居場所の助成を受け運営されています。
利用するのは、小学生20名・中学生20名・高校生10名の計50名。毎週火・水・木の放課後が開所日です。夕方までは認知症サポートセンターの利用があるため、開所は18時〜21時。利用する子どもは、ひとり親世帯や生活保護受給世帯、ネグレクトなどさまざまな困難を抱えています。

開所をしたらすぐに食事と入浴を済ませ、19時からは学習の時間です。学校の宿題をするほか、日本財団がGoogle.orgの支援を受けて配布したタブレットを使って学習アプリをする子どもの姿も見られます。その後、20時30分に小学生は帰宅、中高生も21時には帰路につきます。
居場所として大切にしているのは、食事・勉強・生活習慣の3本柱。手厚い支援を実現するため、社協職員に加え、高校生から70代までが学習生活支援ボランティア、調理ボランティア、運転ボランティアとして関わっています。

中でも学習支援は、長年社協として取り組んできたテーマ。1対1から1対3の少人数で、学校の宿題を中心に学習。2023年からは英検プロジェクトと題して、社協独自の寄付を財源に、英検の受験費やテキスト、交通費などを給付する支援も始めました。
こうした支援を受け、開所3年目になった現在、「早めに来て、食事の前に宿題に取り組むようになった。」「思いを言葉にすることが増えた。」「靴紐の結び方を覚え、自分で上履きを洗えるようになった。」など、さまざまな子どもの変化が見られています。
社協が居場所を運営する意義とは
居場所を社協として運営する意義について、古賀さんは「アウトリーチ力の高さ」を挙げます。
「社協では、生活困窮者自立相談支援事業や困窮世帯向けの貸付事業を実施しているため、支援を必要としている世帯と繋がる機会が多くあります。また、個人情報に厳しい時代ですが、連携のための様々な会議に構成メンバーとして参加しているので、行政や学校とも協力体制がとれています。そこから困難世帯にアプローチして、居場所をご紹介しています。」
社協として目指すのは、困難な背景を抱える子ども達をしっかりと大人にすること「生きるって楽しい」と思ってもらいたいと、古賀さんは話します。
「誰でも来ることが出来る場所は、困難を抱える子どもが疎外感やコンプレックスを感じることにも繋がります。誰でも来ることができる場所は、他の団体にお任せして、社協は課題を抱えている子ども達の拠り所になりたい。ここなら、子どもは『携帯が止まった。』『ガソリン代がないらしいから家まで送ってほしい。』『うち生保だから。』と平気で言えるのです。勉強が難しくてわからなくても、食べるものがなくても、ここなら来たいと思える場所をこれからも提供していきたいですね。」

社会福祉協議会は、安心して生活することのできる「福祉のまちづくり」の実現をめざして、地域に暮らす住民、そして社会福祉関係者、保健・医療・教育などが参加・協力し合いながら活動する組織です。社協が、子ども第三の居場所を運営することで、より困難を抱える子どもへアプローチすることができると同時に、ボランティアとして多くの住民を巻き込み、助け合えるまちになっていく様を三芳町で教えてもらいました。
「社協の可能性は無限大」と笑顔で話す古賀さん。現在、社協が運営する子ども第三の居場所はまだまだ数少ないですが、今後広がりを見せていくかもしれません。
取材:北川由依