自立を目指して食堂を運営。みんなの居場所、新潟市「ここらよ」

米どころ新潟。あたり一面に田んぼ風景が広がる、新潟市江南区横越地区に子ども第三の居場所「ここらよ」はあります。
居場所を訪問し、まず目に飛び込んでくるのが、大きな梨の絵と共に描かれた「えんでばよこごし」という文字です。

「横越は、梨の苗木を植えたのが新潟県内で最古と言われているんですよ」と教えてくれたのは、代表理事の山本美幸さん。横越を代表するような場所になるようにとの想いが込められています。

1階はコミュニティカフェ、2階が居場所
運営するのは、特定非営利活動法人えんでばです。1階はコミュニティカフェ「えんでばよこごし」。10時から17時までランチとカフェメニューを提供しており、誰でも利用が可能です。唐揚げや白身フライの定食、うどん、おにぎり、米粉を使った「お好米焼き(おこのめやき)」などメニューも充実。名産品を活かして独自開発した「和梨のパウンドケーキ」や地元の米粉を使った「おむすびクッキー」もあり、ドリンク片手にほっこりした時間を過ごしにくる方も多くいらっしゃいます。

2階が子ども第三の居場所「ここらよ」。2021年10月に日本財団の採択を受け、子どもたちが安心して過ごせる居場所をオープンしました。火曜日を除き、9時から17時まで開所。小学生を中心に1日平均15名の子どもたちで賑わいます。
広々としたスペースで、子どもたちは勉強やゲーム、読書、おしゃべりなど好きなことをして過ごします。

「ここらよ」の一番の特徴は、食事を無料または低額で食べられること。毎日おにぎり(1人2個まで)とお味噌汁が無料です。また、子どもメニューとして100円でからあげ丼などを食べられるようになっており、仕事や家庭の用事で忙しい保護者からは、大助かりだと感謝の声が届いているのだとか。

ミシンの修理で知った困難を抱える子どもの存在
「ここらよ」は、ミシンの修理・販売事業を展開する山本さんが、修理・点検のために小学校へ出入りしていたことに始まります。その後、ミシンの使い方を教えるボランティアをしないか、と声をかけていただき、学校に出入りする機会が増えていったそう。
「心掛けていたのは、先生方や子どもたちとコミュニケーションをとることです。すると、不登校や保健室登校の子どもがたくさんいることがわかり、彼らとも関わるようにもなりました」
関わりが深まる中で、「困っている子どもや地域の人を助けたいとの思いが募っていった」と山本さん。保健室登校をしていた子どもたちが、「えんでばよこごし」を利用する流れが生まれていたこともあり、より一層子ども支援に注力するために「ここらよ」を開設しました。
「もともと1階はコミュニティスペースとして運営していましたが、なかなか地域の理解を得られず、子どもの利用もあまりありませんでした。財団の事業に採択されてからは、信頼も得やすくなりましたね」
小学校と居場所の連携
「えんでばよこごし」を起点とした活動が徐々に認知をされるようになり、現在は近くの小学校のSSR(校内居場所、スペシャルサポートルーム)の運営にも関わっています。
「ちょっと手伝ってもらえないか、と学校から相談があったことから、私たちのスタッフも常駐するようになりました。居場所と学校の二つがあることで、子どもの様子もよくわかり連携もしやすいです」
「えんでばよこごし」の店長を務める山本卓也さんは、2024年度から地域教育コーディネーターとしても活動。週1〜2回、SSRに顔を出しています。
「人材不足から子どもの利用がある時だけSSRの教室を開ける学校もありますが、ここでは週5日、常時開けていつでも来れる環境をつくっています。教員がいつもいる必要もなく、子どもたちにも目が行き届くので助かると学校からは言ってもらっています」
飲食事業の売上で自立の道を模索
2024年に財団支援の3年間を終えた「えんでば」。現在は、他団体の助成金や企業・個人からの寄付、そして「えんでばよこごし」の売上で、居場所を運営しています。
「法人を立ち上げた時から、活動を自立させることを念頭に考えてきました。活動費を十分に賄えているとは言えませんが、飲食の売上を活動のベースにしながら、寄付を頂戴することで、なんとか運営ができています」

売上の基礎となる飲食事業を支えるのは、頼りになるスタッフのみなさんです。
「仕事や家庭など、何かしらお話をしたくて訪れる方がほとんどです。聴く心を持ち、親切に対応してくれるスタッフの存在に、とても助かっています」
「ちょっと聞いてよ」「こんなことがあって」と駆け込み寺のようにやってくる大人を見ていると、子どもだけではなく、大人にとっても大切な居場所になっていることが伝わってきます。
心の貧困を解消する、みんなの居場所に
今後についてお伺いしたところ、利用者が増え手狭になってきたため、より誰もが来やすいように、「広い場所に移転したい」とのこと。
「子ども食堂をやっているので、様々な事情を抱えた子が利用する場所だと思われている方もいます。でも、そうではないんですよね。解決すべきはお金ではなく心の貧困です。駐車場スペースの広い場所に移転して、特別な理由がない方も訪れやすい場所をつくっていきたいです」
両親が共働きで一人でいるのが寂しい、家では兄弟と喧嘩してしまい落ち着いて過ごせない、友達と遊びたい、ご飯が美味しいから行くなど、「ここらよ」を訪れる理由は様々です。
店長の出身地である新潟県加茂市から南では、「ここだ」が訛って「ここら」と言うそうです。そこから名付けられた「ここらよ」という名前には、「帰る場所は『ここ』『だよ』、『ここにいていいんだよ』との想いが込められています」と山本さん。
誰にとっても帰りたくなる場所を目指して、「ここらよ」はこれからも歩み続けます。
取材:北川由依