2025年4月開学!日本発の本格的オンライン大学「ZEN大学」が目指す教育とは?

2025年4月、株式会社ドワンゴと日本財団が提携して運営する日本発の本格的オンライン大学・ZEN(ぜん)大学が開学しました。すべての授業がオンラインで行われることや、年間約38万円という学びやすい授業料などが話題を呼び、初年度は定員(3,500人)を上回る約4,000名が出願、3,380名人が入学しました。私立大学の多くで定員割れが問題となる中、ZEN大学が受験生から支持を集めた理由はどこにあるのでしょうか。ZEN大学の特徴や目指す教育について、日本財団で同大学の運営を担当する高階大輔に聞きました。

ZEN大学とは?

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日本財団 高階大輔

2025年4月に開学したZEN大学は株式会社ドワンゴと日本財団が提携して創設した、これまでにないタイプの本格的なオンライン大学です。日本最大級の生徒数を誇るN高等学校・S高等学校でのオンライン教育の実績を持つドワンゴと、若者支援に豊富な実績を持つ日本財団が提携し、それぞれの強みを生かした実践的な教育の提供を目指しています。学部は「知能情報社会学部」の一つのみ。理系・文系の枠を越えて「数理」「情報」「文化・思想」「社会・ネットワーク」「経済・マーケット」「デジタル産業」の6分野を横断的に学ぶことができます。

最大の特徴は、すべての授業がオンラインで行われること。リアルタイムのライブ授業のほか、事前収録型のオンデマンド授業も多く用意されており、パソコンとネット環境さえあれば、時間や場所に関係なく受講することができます。授業では、社会に出てから利用する可能性の高い最先端のデジタルツールを活用、学びながらICTリテラシーを身に付けられるようになっています。
また、年間38万円という学費の安さも特徴の一つ(入学検定料・入学金として別途6万6,000円が必要)。選抜はオンラインで提出する書類(志望動機)と小論文のみによって行われ、学科試験は課されず、高校時代の学業成績等も問われません。
日本財団で同大学の立ち上げから運営を担当する高階大輔によると、これらの画期的な取り組みの狙いは、従来の日本の教育が抱えている「格差問題」の解消にあるといいます。

オンライン授業 + 手厚い支援制度で、経済的理由による進学断念をなくしたい

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経済的に余裕のない家庭の学生にも門戸を広げるべく、学費を年間38万円におさえた

さまざまな「格差問題」の中でも特に問題視されているのが、経済格差です。
日本では近年、大学の学費が上昇傾向にあり、国立大学の年間授業料は平均約49万円、私立大学は約103万円に上っています(※1)。高額な学費が用意できないなど経済的な理由で大学の進学をあきらめるケースも決して少なくありません。

「経済格差の影響を特に大きく受けやすいのが、地方の子どもたちです。大学の多くが都市部に集中しているため、地方から大学に進学するためには学費 + α(交通費や下宿代など)の高額な費用がかかります。家計への負担を考えて本来は志望していない実家近くの大学に進学したり、大学進学そのものをあきらめてしまったりするケースが珍しくありません」と高階。「そこでZEN大学ではすべての授業をオンライン化することで場所や時間を選ばず学べる環境を整備、年間の授業料も38万円という通いやすい価格に抑えました」。さらに、日本財団のサポートにより入学前後に申請できる2種類の奨学金や、AIを活用した学術活動を支援する奨励金(いずれも返済不要)を独自に準備し、ZEN大学で学びたい学生を応援しています。

【日本財団のサポートによる奨学金・奨励金】

  1. 日本財団ZEN大学奨学金(入学前申請)
    • 授業料を全額免除
    • 入学初年度は入学検定料および入学金も免除
  2. 特待奨学生支援制度(入学後申請)
    • 年間原則50万円、例外的に100万円を分割支給する
  3. 日本財団HUMAIプログラム・AI活用奨励金(入学後申請)
    • 東京大学松尾・岩澤研究室の協力のもと、第二松尾研が運営するAI活用奨励制度
    • AI初学者の大学生・大学院生を主な対象とし、学術研究活動において新しいAI技術を積極的に活用できるよう、必要に応じた金額を援助

授業のオンライン化には、少子高齢化や人口減少に悩む地方自治体へのメリットも期待できるといいます。「ZEN大学はオンライン授業のみで卒業に必要な単位が取得できるため、基本的に進学のために都市部に引っ越す必要がありません。オンライン授業を通じて身に付けたICTスキルがあれば、卒業後もリモートワーク中心の働き方を選ぶことも可能。つまり、進学や就職を機に地元から出ていく若者を減らせる可能性があります。その意味でZEN大学は都市部への人口集中問題、地方の過疎化問題にも一石を投じることができるのではないかと期待しています」。

オンラインとリアルの融合で、実践的な学びを実現

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N高校で培ったノウハウを活かして、飽きさせない授業を

このようにメリットの多いオンライン授業ですが、「教育の質や学生のモチベーション、リアルなコミュニケーションによって生まれる教育効果を、どう担保していくのか」という問題もあります。特にオンデマンド授業の場合、講義が一方通行になることで学生が受け身になってしまうおそれも考えられます。

ZEN大学では、こういったオンライン授業のデメリットについての対策も十分に講じられています。
「まずは、各分野の第一線で活躍する豪華な講師陣を集め、飽きさせない授業づくりに力を入れています。さらにドワンゴさんがN高校のオンライン授業で培ったノウハウも参考に、授業時間を一般的な大学の授業よりも短い60分間に設定。合間に内容理解のための問いに答える時間を設けるなど、集中力が途切れないように工夫をしています」と高階。「専用の学習アプリを活用したリアルタイムのライブ授業では学生が教授に質問できるほか、学生同士がコメントし合うなど双方向のコミュニケーションを可能にするシステムを用意しています。さらに、希望すればオンラインだけでなくリアルでも学べる現場体験型プログラム(地方や企業でのインターン、海外スタディーツアーや留学プログラムなど)も受講が可能。体験型プログラムでは、自治体や企業との共同プログラムに取り組みながら問題解決に挑み、社会で生きていくための力を養うことができます」。

【例】

  • 離島教育インターン
    沖縄県の島しょ地域で生活する小中学生に向けた教育プログラムの実装を目指し、島に住み込みながら地域住民とのコミュニティの開発と運営を行う。
  • 次世代クリエイター育成プロジェクト
    IT・VR分野を代表する企業と連携し、メタバースやAIなど最新のIT技術を駆使して新しい創作表現に挑戦し、次世代を担うクリエイターを目指す。
  • 泊まって学べるハンセン病療養所スタディーツアー
    ハンセン病患者が直面してきた社会的課題や偏見について理解を深め、ハンセン病に関する正しい知識と差別の歴史を学ぶ。

また、海外大学への留学プログラムや海外での体験学習も用意しており、グローバル人材に必要な語学力やコミュニケーション力を伸ばすこともできるといいます。
高階は「こういったZEN大学が提供する地域・企業連携プログラムや留学プログラムは、日本財団の支援により、学生側の費用負担をできる限り安価に設定、より多くの学生が参加できるようにサポートしていきます。また、日本財団が全世界に有するネットワークや拠点とも連携して、より実践的でグローバルな学びを後押ししていきたいと考えています」と話しています。

専門スタッフが履修計画~キャリア選択を手厚くサポート。
社会に求められるAI人材の育成を目指す

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地方の高校生を対象に、さらなる認知度向上を図りたい

こういった体験型プログラムを含め、ZEN大学で提供するカリキュラムは279科目にも上ります。選ぶ自由が享受できる反面、人によっては自主的にカリキュラムを選ぶこと自体が難しく感じられるかもしれません。特に入学した時点でキャリアパスが明確でない場合、自分で履修や学修の計画を立てることを難しいと感じる人も少なくないはずです。また、まだ就職実績がない新設大学であるがゆえに、卒業後のキャリアパスが描きづらく、不安を覚える学生もいるかもしれません。

ZEN大学では、こうした不安に応えるべく専門的なアドバイザーと学習システムを活用して、学生一人ひとりの学びや学生生活をサポートする体制を整えています。履修計画や学修計画については「クラス・コーチ」が一人ひとりをサポート、「授業を受けるに当たって基礎学力が不安」、「授業の内容についていけない」など学修に関する悩みについては「アカデミック・アドバイザー」がサポート、就職に関する不安や悩みは、キャリアに関するガイダンスや個別相談を通じて就職・キャリア選択をサポートします。企業連携したカリキュラムや体験プログラムも多く、日々の学びが将来のキャリア選択に繋がることも期待されています。

高階は「これまで日本の大学教育は、教育内容と実社会で必要とされるスキルとの乖離が大きいことが課題視されていました。大学側は実践的な教育というよりもアカデミックな教育を提供しようとしており、学生の多くは何かを学ぶというよりも就職のための『免許』を手に入れるために大学に行っているのが現状です。一方の企業は実務に役立つ人材を必要としています。つまり大学・学生・企業の三者の間には大きなミスマッチが生じていて、実社会で活躍できる人材の育成は不十分と言わざるを得ません。例えば、近年はAIの普及が目覚ましく、様々な領域での活用が進んでいます。世界的に見ても少子高齢化による労働力不足が著しい日本では、AIが大きな役割を果たすことは間違いないでしょう。しかし、日本ではAI人材の育成に取り組んでいる大学はごく一部で、AI人材は慢性的に不足しています」と指摘。「このままでは日本はAI分野で国際的に大きな後れを取ってしまいます。そこでZEN大学ではAI活用に必要なスキルや価値観、リテラシーを身に付けられる学習環境を提供、AIをツールとして使いこなし、より良い社会の実現に貢献できる人材の育成に真摯に取り組んでいきます」。

ZEN大学の取り組みはまだ始まったばかり。初年度の出願状況を見ると予想以上に首都圏からの出願が多く、地方の高校生や保護者、教育関係者ZEN大学の認知が浸透していないことが浮き彫りになりました。日本財団では、引き続きドワンゴと協力してZEN大学のカリキュラム拡充を図ると同時に、全国的な認知度向上に努め、若い世代が経済的・地域的な理由で希望の進路をあきらめなくても良い環境を整えてまいります。この取り組みには皆さまからのご寄付によるご支援が欠かせません。次世代を担う若者たちの育成に、ぜひ引き続きご支援をお願い申し上げます。