重機支援が取り除く災害廃棄物と被災者の心理的負担

写真:重機を使った被災地での復旧作業の様子

被害の大きかった岡山県倉敷市真備町は、決壊した川の水に流されてきた土砂や家屋などにより幹線道路が塞がれていました。こうした災害廃棄物は復旧活動の妨げになってしまいます。日本財団は、ボートレース関係者や支援団体などと協力して、問題を一つひとつ解決しています。

被災地の復旧をさまたげる土砂と災害廃棄物

岡山県の主要駅のひとつ、倉敷駅周辺の市街地を車で走ると被害はほとんど見られず、飲食店などの商業施設も平時と変わらず営業を続けています。しかし、川を一本隔てた真備町に近づくにつれ、雰囲気は一変します。今回の豪雨により町の広範囲が浸水した真備町では、路肩に壊れた家具が山積みにされ、信号機も止まったままでした。
「豪雨の時は砂壁がめくれている部分まで水が上がったんですよ」
真備町の川辺に実家がある女性の方が、家の被害状況について説明してくれました。

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砂壁のめくれた跡から浸水の高さがうかがえる

「真備町が浸水している写真を友だちがSNSに掲載してくれて、その写真を見た瞬間、私の実家も大変なことになると思いました。雨が止んだらすぐに駆けつけようと動き始めましたが、壊れた家の屋根が散乱し、幹線道路がふさがれてしまったため、実家に近づくことすらできませんでした」
「しばらくすると幹線道路の障害物は撤去され、徒歩でなら何とか実家に近づくことができました。でも、幹線道路から実家へと続く道路には、たくさんの土砂が残っていたので、隣の家の庭を通ってようやくたどり着けました」
この女性は真備町の実家がどうなったのか、心配になって駆け付けた時の様子を克明に振り返ってくれました。

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真備町の浸水の原因となった河川の決壊部分

真備町は決壊した川の水により、至る所で壊れた家屋や車、土砂などが道路をふさいでしまいました。その結果、浸水した水が引いた後も、復旧活動を行う上で大きな障害になっています。
こうした問題を解決するため、日本財団では現地に職員を派遣し、道路をふさいでいる障害物(災害廃棄物)を重機で取り除く支援を行っています。

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大量の土砂と災害廃棄物が道をふさいでしまっている

被災地の問題を一つひとつ解決していく

支援の現場には、倉敷市に住む現役のボートレーサーである寺田千恵さんも駆けつけ、ダンプカーに積み上げられた災害廃棄物を集積所に指定された真備東中学校まで運んでいました。

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支援現場に応援に来てくれたボートレーサーの寺田千恵さん夫婦

「競艇選手は伝統的にダンプカー乗りが多いんだよ」
支援の現場を監督する日本財団の黒澤はそう話します。
災害廃棄物の集積所に指定された真備東中学校では、すでに校舎の3階ほどの高さまで様々な災害ごみが山積みになっており、今回の災害がもたらした被害のすさまじさを伝えています。

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真備東中学校の校庭に山積みにされた災害廃棄物

真備町には日本財団以外にも、ボートレース関係者や支援団体など、多くの個人・団体が駆けつけてくれました。日本各地で災害が起きるたびに、志を同じにするメンバーが被災地に駆けつけるので、顔馴染みになることも多いようです。
「災害廃棄物を取り除くことで道が一本通じれば、その先に家を持つ方々の心理的な負担も取り除かれます。日本財団だけですべての問題を解決することはできませんが、いろいろな方のご協力を得て、問題を一つひとつ解決していくことが大切ですね」
黒澤は支援にあたる際の心構えをそう表現してくれました。

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現場の指揮を取りながらショベルカーで災害廃棄物を取り除く黒澤

技術系の支援団体が被災地でできること

真備町で支援を行っている団体の一つに「風組関東」があります。「風組関東」は技術系の災害支援を主とするプロボノ集団「風組」の関東支部であり、2004年の新潟県中越地震を契機に結成して以降、新潟県中越沖地震、北陸地方豪雨水害、東日本大震災、熊本地震など、全国各地に支援部隊を派遣してきました。
真備町で支援活動を行う「風組関東」の奥原行雄さんは、豪雨が発生した時に福岡県にいました。真備町の被害が甚大だと分かるとすぐ福岡県を出発、車で19時間をかけて現地に駆けつけました。
「幹線道路を壊れた家の屋根がふさいでいたので、屋根に階段を掛けて歩けるようにし、その場にいた全員でその階段を登って道路を渡りました」
奥原さんは発災直後の様子を振り返ってくれました。

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災害発生の翌日に真備町に駆けつけ、復旧活動を続けている「風組関東」の奥原さん

発災当初、奥原さんはボランティアセンターのサテライト(支部)をどこに設置するか、ボランティアをどこに派遣するか、また、支援に必要な資機材をどうやって確保するか、などについてサポートしながら、真備町のボランティア体制を確立していきました。
現在は被災者が生活を再建していくための技術的なアドバイスを行なっており、浸水被害を受けた家屋から土砂や壊れた家具などを撤去する際に注意すべきことを、専門家の立場から伝えています。

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日本財団や関東風組など複数の支援団体が拠点にしているベースキャンプ

奥原さんによれば、浸水した家屋から土砂や家具などを取り出す際には、注意すべき点がいくつもあるそうです。耐熱材をはがす際にはマスクとゴーグルを着用しないと危険ですし、土砂の中に埋まっている釘が体に刺さると破傷風になる可能性もあります。
こうした二次災害を防ぐために、「水害にあったときに」※というタイトルの冊子を被災地で配布しており、被害拡大の防止に努めています。真備町では浸水した家屋が多く存在しているので、「風組関東」では今後、地元の社会福祉協議会と協力して、住民やボランティアの方を対象に技術的なアドバイスを提供する講習会を開催する予定にしています。

「今回の豪雨のように広域で災害が起きると、技術系の支援者が被災各地に分散されてしまうので、災害対応を担える人材を増やしていく必要があります」
奥原さんは人材育成の重要性についても話してくれました。
町のほとんどが浸水により大きな被害を受けた真備町では、必要とされる支援はまだ多く存在します。現地の課題を一つひとつ解決するために、日本財団や「風組関東」をはじめとする支援団体が、連日、復旧作業を進めています。

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浸水した家では畳を上げて床板をはがし、土砂を取り除く作業が進められている

取材・文:井上 徹太郎(株式会社サイエンスクラフト)
写真:和田 剛