東北の大学生ボランティアが被災地で行った「恩返し」

平田さんと学生ボランティアたちの集合写真

平成30年7月豪雨から1カ月以上が経ちましたが、被災地では復旧・復興に向けた課題が今も山積みです。そうした課題を解決するために、日本財団ではGakuvo(ガクボ:日本財団学生ボランティアセンター)を通して、被災地に学生ボランティアを派遣しています。

被災地の人手不足を解消するために学生ボランティアを派遣

「広島県三原市では7月だけで4,624人のボランティアが参加し、家屋に流れ込んだ土砂や使えなくなった家具を取り除いてくれました。今も床下の泥の掻き出しなど、必要な作業があるので、少しでも多くボランティアの方に来ていただけると助かります」
三原市社会福祉協議会で本郷地域センター長を務める西田俊明さんは、支援活動を担うボランティアがまだまだ不足していると感じているようでした。

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三原市のボランティア状況について説明する西田さん

今回の平成30年7月豪雨により、三原市でも河川の氾濫や土砂災害が発生するなど、甚大な被害がもたらされました。市内各地の家屋に土砂が入り込んだため、床下の泥を取り除く作業などにおいてボランティアが活躍しています。
一方、災害から1カ月以上が経過したことでボランティアの参加者も減り、今後どのように人手を集めるのかが課題にもなっています。

写真:被災した家屋の外観
被災地ではまだまだボランティアの人手が必要

「今までは社協のホームページでボランティアの募集を行っていましたが、SNSで呼びかけるのが効果的だとアドバイスをいただき、8月からはFacebookでの募集も始めました」
西田さんがボランティアを集めることの大変さについて説明してくれました。
Gakuvoでは有志の学生を募り、人手が不足している被災地へボランティアとして派遣しています。三原市には、東北の大学生を中心に18名の学生ボランティアが、8月9日から11日まで派遣されました。

55年間住み続けた家にこれからも住みたい

「床下の泥を土のう袋に入れる人が9人、袋を受け取って土のうを積んでいく人が9人。二手に分かれ、分担して作業をしていきましょう」
学生ボランティアのリーダーである小島隆佑さんの掛け声と共に、作業が始まりました。

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作業に取り掛かる学生ボランティアのみなさん

今回の作業を行う家屋では、豪雨によって裏山から流れ込んできた土砂が床下に溜まっていました。そこで、床下の泥をスコップで土のう袋に入れて取り除き、できあがった土のう袋を家の周りに積み上げることにしました。そうすることで、再び同じような豪雨に見舞われても、裏山から出た水や土砂が家屋に流入するのを防げるからです。

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スコップで床下の泥を取り除く
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取り出した泥は土のう袋に入れる

「作業は大変ですが、誰かの役に立っていると思うと、とてもやり甲斐を感じます」
作業中の学生ボランティアの一人が、汗を流しながら話してくれました。床下に溜まっていた泥は彼らの手によって次々と運び出され、作業終了時には1袋7キロから10キロほど入る土のう袋が、300個も積み上がりました。

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積み重なる土のう袋の数から、家屋に流れ込んだ泥の多さが分かる

「出身は広島市ですが、55年前に三原市のこの家に嫁ぎました。それ以来ずっと住み続けています。平成30年7月豪雨で家の中に土砂が流れ込んだため、今は一時的に親族の家に身を寄せていますが、思い入れのあるこの家でまた生活ができればと思っています」
Gakuvoの学生ボランティアたちが泥を取り除いた家に住む平田佐子さんが、長年住み続けた自宅に対する想いを語ってくれました。

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55年間住み続けた家への愛着を語る平田さん

「家が奥まったところにあり、車も入って来られないためか、なかなか被害が認知されなくて困っていました。他のところもみんな被害を受けているから、仕方ない話ですけどね。今回は学生ボランティアのみなさんが手伝ってくれて、本当に助かりました」
平田さんが感謝の言葉を学生たちに伝えました。

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学生ボランティアに感謝の言葉を伝える平田さん

東北で被災した大学生が抱くボランティアへの想い

「テレビで被災地の様子を見て参加を決めました。7年前に東日本大震災を経験しましたが、そのときにたくさんの人たちから支援していただきました。その恩返しとして、今回はGakuvoに参加しました」
学生ボランティアのリーダーを務める小島さんが、ボランティア参加への想いを語ってくれました。

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ボランティア参加への想いを語る小島さん

今回の学生ボランティアの派遣は東北の大学生が中心で、小島さんのように過去に災害を経験した学生も少なくありませんでした。自分が被災したときに多くの人たちに助けられたからこそ、今回の災害では被災地に恩返しをしたいのだという意思が、彼らからは強く感じられました。
東日本大震災のときに被災した小学生が、今では大学生になり、平成30年7月豪雨の被災地でボランティアとして汗を流しています。日本財団では今後もGakuvoを通じて、被災地への学生ボランティアの派遣を続けていきます。

取材・文:井上 徹太郎(株式会社サイエンスクラフト)
写真:和田 剛