因島の歴史と風土から生まれた、「囲碁教室」と「島キャンプ」

全国各地に37箇所ある第三の居場所。その中で、島に居場所があるという特徴をもつのが広島県尾道市の因島拠点です。今回は、島ならではの歴史や風土を生かしたプログラムをご紹介します。
穏やかな海に囲まれた環境で育つ
因島の人口は2.2万人。日本最大と言われた村上海賊の本拠地であり、八朔の発祥地としても知られています。
穏やかな海、ゆったりと進む船、温暖な気候に育まれる柑橘類。そんな自然豊かな場所に、2019年から開設したのが因島拠点です。

現在(2020年11月時点)通うのは、5世帯9人。発達の遅れなど何らかの困難を抱えた子どもたちも通っています。
一人ひとりじっくり向き合うことが必要な特性を持つ子ども達が多いため、他の拠点に比べてスタッフ数を多めに配置していることも特徴的です。
瀬戸内の自然を満喫する「島キャンプ」

因島らしさをいかしたプログラムの一つに、島キャンプがあります。島キャンプは、毎年夏頃に開催。家庭と拠点の信頼関係を築くことも目的の一つであるため、子ども達のみならずご家族も一緒に参加が基本です。
しまなみ海道に位置する因島の周りには、自然がいっぱい。「海も山もすぐ近くにあり、行き先に困らないところが因島の魅力」と拠点マネージャーは話します。

開設1年目の2019年、そして2020年ともに、近くの島へ渡りキャンプを楽しみました。
「今年は新型コロナウイルス感染症対策のため、BBQの実施を中止。世帯ごとにカレーライスを作ってもらいました。日頃お忙しい保護者の方と調理する機会は、子ども達にとって貴重なものになっています。お皿を洗ったり、野菜を切ったりする姿を見て、1年前よりも子ども達の成長を実感しました」(拠点マネージャー)
自らの手でテントを立てたり食事を作ったりする行為は、子ども達が生活習慣を身につける訓練としても役立っているそう。中には共同風呂初体験の子どもも居て、家庭だけではできない経験をする機会にもなっています。
本因坊秀策 生誕の地の「囲碁教室」

島キャンプに加えて特徴的なプログラムが、囲碁教室です。因島は、今もなお碁聖と仰がれる天才棋士、本因坊秀策が生まれた土地。囲碁は尾道市の市技に指定され、市を挙げて推奨しています。
こども園や小学校でも囲碁にふれる機会があるなど、因島の子ども達にとって囲碁は身近なもの。拠点でも、開設2年目となった2020年秋から囲碁を取り入れています。
子ども達は月2回、因島に住む囲碁の先生をお呼びして、囲碁を習います。まずは本因坊秀策について書かれた絵本を読むところからスタート。囲碁と因島の関係について知識を得た後、まずは相手の碁石を取る遊びをして、囲碁に馴染んでいきます。

「発達に遅れの見られる子どもが多いので、開設1年目は、生活習慣を身につけてもらったり集団生活ができるように働きかけたりすることで、いっぱいいっぱいでした。2年目になり、一つのことを継続して取り組む力がついてきたので、囲碁教室を始めました。私たちにとっても外部講師をお呼びしたプログラムは、大きな挑戦でした」(拠点マネージャー)
囲碁教室では、基本となる挨拶や姿勢についても学びます。そのため、子ども達の生活習慣を身に付けるトレーニングにも繋がっているそうです。
「囲碁は年齢に関係なくできるゲームです。囲碁を始めてから、拠点内で他学年の子ども同士が遊ぶ姿を見ることが増えました。ルールさえ知っていれば、住んでいる場所も年齢も関係なく仲良くなれるのが囲碁の魅力。まだまだ先の話ですが、将来的には他拠点にお声がけをして、拠点交流イベントとして囲碁大会を開催したいなと思っています」(拠点マネージャー)
家庭菜園や花壇など豊かな自然を生かしたプログラムも
他にも、因島拠点では風土を生かしたプログラムをいくつも実施しています。
例えば、家庭菜園。拠点のそばにある畑をお借りして、季節ごとの野菜を栽培しています。取材に訪れた秋には、オクラ、ナス、玉ねぎ、じゃがいもなどがすくすくと育っていました。
子ども達が毎日お世話をする……とまではいきませんが、収穫したものを拠点で調理し夕ご飯で提供したり、お家に持って帰ってもらったりしています。

「スタッフに畑仕事が得意な方がいるので、私たちも習いながら子ども達と一緒に栽培しています。私たちが水やりをできない時は、ご近所さんがしてくれることもあるんです。みなさん気にかけてくれて、ありがたいですね」(拠点マネージャー)

様々な刺激を受けて、目標や夢を見つけてほしい
島ならではのプログラムを通して、子ども達との関わり合いをする因島拠点。最後に、因島の魅力と子ども達にどんな大人になって欲しいかをお伺いしました。
「因島はすごく住みやすい町です。海や山、そして畑もあり、自然に恵まれています。公園もたくさんあるので、子ども達の居場所となりうる場所がたくさんあります。どこでも遊べるから、子ども達にとっても過ごしやすいと思いますよ」(拠点マネージャー)
「発達の遅れが見られる子どもは、学校に馴染めなかったり学習面で遅れが見られたりもします。大人になった時のために、自立できるようサポートしていきたいです。その上で、今は目標や夢がない子どもも、拠点のプログラムで刺激を受けて、頑張れるもの、楽しいと思えることを増やしていってほしいですね」(拠点マネージャー)
子ども達もスタッフも、共に成長しながら歩む因島拠点。今後も、島ならではのプログラムを考えながら、子どもの自立を育んでいきます。
取材:北川 由依

日本財団は、「生きにくさ」を抱える子どもたちに対しての支援活動を、「日本財団子どもサポートプロジェクト」として一元的に取り組んでいます。