みんなの笑顔と「その人らしく生きる」を応援する在宅療養ネットワークの取り組み
こんにちは。「難病の子どもと家族を支えるプログラム」活動報告ページへようこそ。
国内事業開発チーム 難病の子どもと家族を支えるプログラムチームです。
今回は一般社団法人在宅療養ネットワークの取り組みをご紹介します。
「お兄ちゃんの声」が社会を動かした
香川県高松市の街道の一角に建つ真っ白な建物。そこには0歳児からお年寄りの重い障害のある人が通う施設「在宅療養ネットワーク」があります。ここに通うお年寄りと子どもは自然な形で触れ合うだけでなく、地元の人も気軽に立ち寄ってマッサージチェアでくつろぎ、お茶を飲みながらお互いに声をかけあうなど、建物の中は笑い声が絶えません。

この施設を運営するのは一般社団法人在宅療養ネットワーク。2013年より重度の難病患者や終末期の要介護者を対象に訪問看護や居宅介護支援、療養通所介護事業を提供してきました。
2017年からは対象を子どもに広げ、児童発達支援、放課後等デイサービス生活介護事業も行っています。そのきっかけになったのは、ある3歳の男の子、ゆず君の存在でした。ゆず君には心疾患があり、病院に長期入院していましたが、ゆず君のお兄ちゃんが「弟と一緒に暮らしたい」とお母さんに直談判。仕事復帰をしていたお母さんが在宅療養ネットワークに相談、なんとかなると動き出したことで、家での暮らしが実現。香川県初の医療的ケアが必要な子どもが家族と離れて通う施設となりました。
代表理事の英(はなふさ)早苗さんは、「お兄ちゃんが弟と家で一緒に暮らしたいと声を出してくれたことが、社会を動かす力になったのです」と言います。
子どもの利用が増えたことでこれまでの施設は手狭になり、子どもの成長に合わせたスペース確保の必要性を感じていたところ、2020年3月に日本財団の助成を受けて、新たな地域連携のための拠点として開設。地域の人も気軽に通い、多様な人たちが集う場が生まれました。

みんなの生きるを応援する場
ゆず君を受け入れた当時は、県内には未就学の医療的ケア児に対応する施設が少なく、親が人に言えず自分で抱え込んでいた状況がありました。
日々のケアに追われていたあるお母さん。ミルクは1日7回注人、それから痰の吸引など息をつく間がないほどでした。在宅療養ネットワークに通い始めてそのお母さんから「抱っこしてもいいんですね」という言葉が出ました。それほど余裕がなかったのです。「お母さんが安心して子どもを託せる環境と、介護から離れる時間が大切です」と英さん。
また、起き上がることも、食事を摂ることもできなかったお年寄りに、女の子が「頑張れ」と手をたたいて応援、起きて食べられるようになったことも。女の子はおばあちゃんの応援をすることでみんなにいっぱい褒めてもらい自己肯定感が生まれるなど、お互いに役割が生まれよい効果を与え合える場になっています。

たくさんの体験をしてほしい
活動スペースが増えたことで、多様なニーズに対応し、子どもたちは能動的な活動ができるようになりました。また、地域交流室ができたことで日常的に地域の人が交流し医療的ケアや障害への理解が深まり、ホールや相談所を併設したことできょうだい児がそこで遊んだり、家族の相談を受けたりする場となっています。
行政と共に保育園に働きかけて、気管切開をした百ちゃんという女の子の保育園への通園が実現。県では3か所医療的ケア児を受け入れる保育園があり、次年度以降の子どもたちも後に続いています。
子どもは同世代の子どもと共に育つことで体験の幅が大きく広がります。「風が吹いて頬にあたるだけで怖がっていた目や耳の不自由な男の子が保育園に通うようになり、今ではブランコで元気に遊んでいます。いろんな体験をして、人生の選択肢を広げていってほしいです」と英さん。

その人らしく笑顔が溢れる人生を
通所するお年寄りと子どもたちみんなで買い物に出ると街道の方々から次々に声がかかり温かく迎えてくれます。総菜屋さんが50グラムの小さなオムレツを作ってくれて、街道を歩く小学生の子どもたちが気軽に話かけてくることも。
施設の開設を新聞などのメディアに取り上げられたことで、医療的ケア児についての課題を県民に伝えることはできました。医療的ケア児やこの施設について「知ってもらう」ことができても、「わかってもらう」ことがこれからの目標だと言います。
医療的ケアの必要な〇ちゃんではなくて、〇ちゃんはこんなことがあって医療的ケアが必要なんだよね、という発想の転換も必要です。香川には「ゆるぎたるぎ」という融通をきかせようという意味の言葉があります。「白いものは何?と子どもに聞くと、雲やうどんなどと答えます。どれも間違いではないですよね。その人がその人らしく多様性をもって生きていける世の中になってほしいです」と英さんは言います。
「オリーブの葉が、先が割れていると不吉とされていたのですが、今はハートのようだと見つけた人をハッピーな気分にしている。そのようにちょっと視点を変えると、見える世界が変わります。どの子もみんなにたくさんの愛情を注がれるべき存在なのです」。
「障害者も健常者も、年齢も関係なく地域の一人一人が社会の一員として自分の存在を肯定できる地域の居場所になってほしい。みんなの笑顔を応援したいのです」と、英さんは活動への思いを話してくれました。

日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラムでは、日本全国に難病の子どもと家族の笑顔を増やしていきます。
難病の子どもと家族を支えるプログラム
一般社団法人 在宅療養ネットワーク
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文責 ライター 玉井 肇子
日本財団 公益事業部 国内事業開発チーム 中嶋 弓子

日本財団は、「生きにくさ」を抱える子どもたちに対しての支援活動を、「日本財団子どもサポートプロジェクト」として一元的に取り組んでいます。