文化住宅をリノベして“ごちゃまぜ”の場所をつくる。人の流れが変わり始めた、大阪・摂津の拠点。

2021年10月から、今夏新たに採択された35のコミュニティモデルの拠点が動き出しました。コミュニティモデルは、小学校~高校生を主な対象にしながら、地域の方も気軽に立ち寄れる居場所のこと。人間関係構築力やや自己肯定感を育むとともに、課題を抱える子どもの早期発見や見守りを行うことを目指しています。
今回訪れたのは、大阪府摂津市に誕生した「JOCA大阪」(運営:公益社団法人青年海外協力協会)です。
木造2階建ての文化住宅をリノベーション
阪急「正雀駅」からマンションや一軒家が立ち並ぶ住宅街を抜けていくと、近畿地方で高度経済成長期に建築された集合住宅である「文化住宅」が姿を現します。この一角をリノベーションして生まれたのが「JOCA大阪」です。

もともと1階はスナックとクリーニング屋さん、2階が住居だった場所をスタッフの手でリノベーション。ガラス張りで明るい雰囲気の場所に生まれ変わりました。
3年前のオープン時から、コーヒーを一杯50円の格安価格で提供していることから、近隣に住む年配者の溜まり場に。囲碁をしたり散歩がてら寄ったりする姿が日常の風景として定着しています。
そんな「JOCA大阪」が、2021年10月からコミュニティモデル拠点としてリスタート。今まで構築してきた関係性を活かしながら、子ども達にとっても拠り所となるよう、日本財団が主宰した「コミュニティモデル交流会」への参加や地域での新しい取り組みをしながら、多世代が“ごちゃまぜ”になって楽しめる場所になるよう動いています。
中学生から年配者までみんなで力を合わせて本棚をDIY
取材に訪れた日も、初めてのDIYイベントを開催中。2階に置く棚とおもちゃ箱を中学生から年配者まで集まり、手を動かしていました。

多世代が参加するイベントは初めての開催だったそう。しかし、「ここはこうしたら?」「手伝おうか?」と、子どもも大人もお互い声を掛け合う場面も多く見られました。
途中、近隣の英会話教室が開催しているハロウィンイベントの一環で、子ども達の仮装行列が通過。「お〜い!」とスタッフが手を振りコミュニケーションをとる場面も見られ、摂津拠点がしっかりと地域に馴染んでいることを感じられました。

悩みを隠さずに相談したら、必要な人に届くように
9月に「コミュニティモデル交流会」を開催した際は、「どう子ども達との接点を作っていけばよいのか」と悩んでいた「JOCA大阪」のみなさん。しかし、開所からわずか1カ月ではあるものの、「関わる子どもの数は着実に増えている」とスタッフの槌谷ひかりさんは話します。
その秘訣とは。
「学校でチラシを配らせてもらうことも考えましたが、大勢来ても受け入れられません。でも、広報しないとJOCA大阪を知ってもらうこともできない。コロナもあってイベントもしづらいので、どうしよう…と悩みました。そこで、悩みを隠さずいろんな人に相談しましたんです。すると、英会話教室の方や隣の花屋さんがチラシを置いていいよと言ってくださって。そこから子育て世代に情報が伝わり、子ども達も知ることになって。口コミで広がっていきました」

地域の人の助けがあって、今では小学生・中学生それぞれ10名ほどが出入りをしているそうです。
「一人親家庭の子や保護者が遅くまで働いている鍵っ子、兄弟姉妹がおらず遊び相手がいなくて寂しがっている子などが、利用しています。JOCA大阪としてプログラムは決めていないので、子ども達はカードゲームをしたり本を読んだりして、自由に過ごしています。テスト前には勉強をしている姿も見られますよ」
どの世代も、地域の中に居場所を求めている
近隣には独居の高齢者も多く、囲碁を打つ相手や茶飲み友達を求めている人が「JOCA大阪」に足を運んでくれています。そこに秋からは子ども達の姿も加わり、コミュニティモデルが目指す、居場所に一歩ずつ近づいているようです。
「拠点に飾ってあるお花は、ありがたいことにお隣の花屋さんのご好意で飾っていただいてます。季節ごとに新しいお花を持ってきてくださるんです。他にも、趣味で描かれた絵や自宅の庭で育てているお花を摘んで持ってきて飾る高齢者もいます」

自ら進んでより良い居場所になるよう関わってくれていることが、何よりも嬉しいと語る槌谷さん。しかし、運営する中で新たな課題も見えてきているのだとか。
「いつの間にか1階は高齢者、2階は子どもと居場所が分かれてきてしまっています。お互い居るのは知っているけれど、普段は交わり合うことはほとんどありません」
そうした状況を改善するためにも、DIYイベントのように多世代で楽しめる催しを今後は積極的に開催したいと考えてます。
拠点ができたことで、人の流れが変わり始めた
「JOCA大阪」ができる以前、前の道は人通りの少ない道だったそうです。しかし、ガラス張りの明るい雰囲気に生まれ変わり、頻繁に人が出入りするようになってから、少しずつ人通りが増えている、と槌谷さんは話します。
コミュニティモデルとしてリスタートを切ってからまだ1カ月です。しかし、拠点があることで、おそらくこれからますます人の行き来が増え、まち自体も変わっていくのではないか。そんな可能性を感じた取材になりました。
取材:北川由依

日本財団は、「生きにくさ」を抱える子どもたちに対しての支援活動を、「日本財団子どもサポートプロジェクト」として一元的に取り組んでいます。