約300食を徳島市内の各家庭へお届け。就労支援施設に併設した拠点「徳島万代クレエール」

「地域の中にはいろんな人がいて、助け合いながら生活していることを感じてもらいたい」
そう話すのは、NPO法人Creer(クレエール)の喜多條雅子さん。長年、福祉事業を展開してきたネットワークをいかし、2021年10月、徳島県徳島市にコミュニティモデル型の拠点をオープン。子ども第三の居場所の仲間になりました。
テーマパークのように楽しい空間
徳島拠点があるのは、徳島市内を流れる新町川の川沿い。もともと運輸会社の倉庫として使われていた場所をリノベーションして生まれました。

足を踏み入れて、まず驚いたのはポップで楽しげな内装です。テーマパークや海外の街並みから着想したという空間は、居るだけでワクワクした気持ちになります。

施設内は、食事を楽しむスペース、絵本やおもちゃが並ぶ遊び場、子どもキッチンなどから成り立っています。また広いスペースを生かして、授乳室やオムツ替えの小部屋も完備。子連れで安心して過ごせるよう、環境を整えました。
障害のある人の就労拠点を併設
徳島拠点の特徴は、障害のある人が働く場所が併設されているところです。Creerでは「障害のある人がいきいきと働き自立できる場所をつくりたい」と、2008年の設立以来、徳島県産の食材を生かしたお弁当の製造販売・配達と、お菓子類の製造販売をしてきました。
開店当初より、地産の野菜をたっぷり使い、手作りで、色とりどりのおかずを詰めたお弁当が大人気になり毎年売上高がUP。徳島県の平均工賃は月2.2万円(全国平均1.6万円)のところ、平均7万円、フルタイムで働く人の場合月に10万円を超える工賃を支払えるほど、経済的に自立できる仕組みになっています。

Creerで働く障害者が自分に必要なお金を稼げるようになったのは地域のみなさんのおかげと考え、お礼をしようと、2018年7月より「子ども食堂」を開始。今までに約2万人以上の人が利用しました。
「子ども食堂」の食事も、基本的には障害者のスタッフ中心に作られたものです。訪れた子ども達を喜ばせようと、第4土曜日に開催している「子ども食堂」では、特製の「お子様ランチ」を提供しています。

「自分が作った料理を子ども達が喜んで食べる様子を見て、障害のあるスタッフもやりがいを感じています。子ども向け料理教室を開催した際には、子ども達との触れ合いを楽しんでいました。また、子ども達や地域の人達からも、いきいきと料理を作る障害者の姿を見て『美味しいものをたくさん作ってすごいね。いつもありがとう』と感想をいただいています」
180件を超える子ども宅食から見えてきた、貧困の実態
拠点を常時利用し、学習や食事をしている子どもは今のところ12名ですが、利用者数が増えているのが「子ども宅食」です。コロナ禍によってますます生活が厳しくなった家庭を中心に、180軒272人にお弁当や食材を届けています。
「個別宅配すると、子どもだけで家にいる家庭や食事の用意が難しい家庭など厳しい実態が見えてきます。困難な環境にいる子ども達に、『拠点に通わないか』と声をかけ支援に繋げています。居場所まで送迎して、みんなで温かい食事を囲んだり、大学生が学習支援をしたり、遊んだり、入浴したりして放課後から夜の時間を楽しく過ごしています。」

そうした状況を把握する中で、徳島万代クレエールでは「保護者ができなくても、子ども達が自炊や家事をできるようになれば格差の連鎖を断ち切れるのではないか」と考え、食事を中心とした居場所づくりに注力しています。
「おかずは障がいのある人達が作ったおかずを食べていますが、ご飯は拠点に来てすぐ子ども達が炊いています。カレー、シチュー、おでん等の調理実習もしています。家に食べるものがなくても、ご飯を炊けたらおにぎりを作ってお腹を満たせるようになりますから」
また毎日、大学生のボランティアスタッフや退職した学校の先生達が訪れ、勉強を教えたり本の読み聞かせや工作などを一緒にしたりしています。食材を持ってきてくれる地域の生産者さんやシニアボランティアも含めると100名を超える人が関わっているのも、拠点の特徴の一つです。

「かつては18時に閉館していましたが、子ども第三の居場所にしたことで21時まで開けることができるようになりました。放課後たっぷり時間があるので、宿題をして、ご飯を食べて、お風呂に入ることができます。家で子どもだけで過ごしたりコンビニ弁当を食べたりするよりも、いろんな人と関わりながら温かいご飯を食べることは、子どもの成長に良い影響を与えるはずです」
社会のことを学べる居場所に
テーマパークのような空間に、障害のある人、大学生やシニアボランティアなどさまざまな人が出入りする徳島万代クレエール。毎月第4土曜日に開催している「子ども食堂」は、季節イベントやコンサートなども組み合わせて実施していくほか、子ども達が社会の仕組みを学ぶ機会にしようと考えています。

「12月の子ども食堂は、100万人のクラシックライブをお呼びし、コンサートを実施しました。今後はそうしたイベント時に、子ども達が作ったおにぎりやお菓子を販売して、活動資金を稼ぐことも考えています。社会のことを学びながら、職業を模索する機会にもなったらいいですね」

子ども第三の居場所としての活動はまだ始まったばかりですが、長年NPO法人として培ってきたネットワークや実績から、支援者は続々と現れています。生産者や市場、企業からの差し入れや寄付も連日届き、地域一丸となって拠点を守り育てていこうとする動きを感じることができました。
「拠点を利用する子ども達が大人になった時、『そういえば居場所で楽しく過ごしたり、障害のある人が作ったご飯を食べていたな』と思い出して、地域ではいろんな人が助け合いながら生活していることを理解したり、困っている人を助けることができる人になってくれたら嬉しいですね」
すでに就労支援施設として自立した仕組みを生み出した実績を誇るCreer。子ども第三の居場所としてどのような自立モデルを形成していくのか、今後も注目していきます。
取材:北川由依

日本財団は、「生きにくさ」を抱える子どもたちに対しての支援活動を、「日本財団子どもサポートプロジェクト」として一元的に取り組んでいます。