ショートステイと子ども第三の居場所を組み合わせた、京都・伏見の「メリーアティック」

さまざまな生活の問題から家庭での子どもの養育が一時的に困難となったとき、利用することができる国の制度に、子育て支援ショートステイ(短期利用)事業(以下、ショートステイ)があります。従来、乳児院や児童養護施設などに併設される形で運営されることが多く、単独での施設運営はほとんど見られませんでした。そんな中、2022年7月から子ども第三の居場所として京都・伏見にプレオープンした「メリーアティックホープ」は、ショートステイを単独運営する場所に併設されています。
ショートステイ「メリーアティックボンド」と子ども第三の居場所「メリーアティックホープ」を組み合わせた運営形態になった背景やその可能性についてお伺いしました。
埼玉や沖縄でも学童クラブを運営
運営する一般社団法人merry atticは、2016年設立。現在、埼玉や沖縄で学童クラブや放課後子ども教室を運営しています。
「100年後、200年後には今はまだ想像もできない社会課題があるはず。その時代を生きる人が一歩、二歩と踏み出していける志を育んでいきたい」と代表の上田馨一さんは語ります。

さまざまなご縁が巡って、京都に足を運ぶことになった上田さん。京都で出会った方々から、孤立育児や虐待に関する課題について相談を受けたことで、「虐待予防のアプローチの一つになるショートステイ事業に目を向けた」と振り返ります。
「ショートステイに関しては全国で800箇所以上設置されています。通常、乳児院や児童養護施設に併設されることが一般的で、僕が調べる限り、単独で運営しているところはmerry atticくらいです」

保護者の心理的ハードルを下げる居場所の取り組み
2021年5月にショートステイをオープンしてから、1日約10人の子どもが利用してきました。9割近くが母子世帯です。
「乳児院や児童養護施設のように、きちんと安全が管理された施設も必要です。しかし、保護者が一時的に子どもを預けたいと考えても、このような施設は心理的ハードルが高い。またどこもキャパオーバーで受け入れが難しくなっています。24時間学童のような感じで、保護者が身近に感じられるような居場所をつくりたいと考えています」

2022年7月からは、子ども第三の居場所「メリーアティックホープ」としても稼働を始めました。生活支援や学習支援に加え、季節感のあるイベントを実施するなど、支援の幅は広がっています。
「ショートステイ事業のみでは、運営費も厳しく、安全の確保や食事の提供など最低限の生活を守ることで精一杯でした。同時に、利用しているご家庭の多くは、自宅での季節イベントや季節感のある食事の取り扱いが少ないことも感じていました。子ども第三の居場所に加わったことで、子どもたちにより充実した生活環境や体験の機会を提供できるようになりましたね」

子どもと保護者がともに安心できる居場所に
オープンから一年余り、merry atticは行政と連携しながら、さまざまな背景をもつ子どもたちを受け入れてきました。
「保育園と折り合いがつかず、児童相談所もうまくコミュニケーションが取れていない、ネグレクト傾向のあるご家庭がありました。京都市の一時相談窓口さんで、メリーアティックをご紹介いただいたところ、イベントを実施していることに興味を持っていただいて。送迎があれば利用したいとのご希望だったので、すぐに送迎できるよう手配して、利用につながったケースもあります」

また、子どもたちからも「メリーアティックへ行きたい」という声が聞こえてくるようになったのだとか。
「6人きょうだいで、全員お父さんが違う世帯がありました。子どもたちが『なんでこんな境遇なんやろ』と嘆くこともあり、時に行きしぶりが見られることもあったんですね。しかし、オカリナ作りやプログラミングなどのイベントに参加したいから、もう一回利用したいと言ってくれて。また、作ったものを子どもたちがお母さんに見せると、お母さんも『上手だね』『綺麗だね』と声をかけて、子どももお母さんもすごく嬉しそうでした。家では褒められることが少ないようなのですが、一時的にでも安心したり嬉しそうだったりする表情を見られて、子ども第三の居場所をやってよかったなと思いましたね」



子ども第三の居場所と連携することで生まれる可能性
現在、子ども第三の居場所として週3日開所。放課後、宿題や食事をしたあと、宿泊の希望があればショートステイ事業を利用して、翌朝、メリーアティックから学校へ直接行くこともできます。
希望すれば24時間体制でサポートできるのは、ショートステイ事業と子ども第三の居場所を掛け合わせた仕組みだからこそ。保護者にとっても子どもにとっても、「学童に行くみたいなもの」「児童館でイベントやっているなら行ってみようか」と思ってもらえるくらい、ハードルの低いものにしていきたいと考えています。
「一時保護になると、子どもにも大きな負担がかかります。学童でもない。保育園でもない。メリーアティックがまさに第三の居場所となるように、行政と連携しながら進めていきたいですね」
ショートステイ事業と子ども第三の居場所を組み合わせた体制は、メリーアティックが全国初になります。ここで成果が生まれていけば、一つのモデルとして全国に広げていきたいと、上田さんは語りました。
取材:北川由依

日本財団は、「生きにくさ」を抱える子どもたちに対しての支援活動を、「日本財団子どもサポートプロジェクト」として一元的に取り組んでいます。