『夢の奨学金第8期生』認定証授与式6人の第8期生に認定証が手渡される

「日本財団夢の奨学金」の奨学生として新たに加わる2023年度第8期生の認定証授与式が、3月13日(月)に日本財団ビル(東京都赤坂)にて開催されました。新年度は6人が奨学生として認定され、遠方からの奨学生も含めて全員が日本財団に集まりました。これからの学生生活を支えるソーシャルワーカー、そして日本財団職員が見守る中、日本財団笹川陽平会長から認定証が授与され、励ましの言葉を受けました。
最初に吉倉和宏常務理事が開会を宣言しました。
「皆さんおめでとうございます。前年度は新型コロナウイルス感染防止のため、オンラインと対面のハイブリット形式での開催でしたが、今年度は久しぶりに全員の皆さんにお集まりいただくことができてうれしく思います」との挨拶がありました。
続いて、第8期の奨学生一人ひとりに日本財団笹川陽平会長より認定証が授与されました。職員から奨学生の名前を読み上げられると「はい」と返事をして前に進み、笹川会長より認定証を受け取りました。緊張した面持ちの奨学生の皆さんでしたが、笹川会長より「おめでとう」と声をかけられ、喜びを実感した様子でした。会場では一人ひとりにソーシャルワーカーや職員からも「おめでとう」の声と拍手が起こりました。

自己紹介で学びの目標、将来の夢を表明
認定証の授与に続いて、一人ひとり自己紹介を行いました。奨学生としての抱負、これからの学生生活でがんばりたいこと、達成したいこと、そして将来の夢など、改めて決意表明をしていただきました。

水族館が好きで動物関係の専門学校に入学する奨学生は、「ドルフィントレーナーのコースに入学します。これから動物のこと、海の生物のことについて学び、ドルフィントレーナーを目指します」と決意を伝えてくれました。
理系の大学院に進むこととなった奨学生は、「大学時代偏光フィルムに関するヨウ素の研究をしていた。大学院でも引き続きこの分野について研究していきたい」と語ってくれました。
大学の経済学部で学ぶ奨学生は「大学で成し遂げたいことが2つあります。一つは教員免許を取ることです。二つ目は、子どもの支援をするために経済面や環境面でなぜ格差が起きるのか、どうやったら埋められるのか、ということを明らかにしたいと考えています」と意気込みを語りました。
大学院2年生に進級する奨学生は、大学院では風力発電に関する研究に従事するとのこと。「これから重要になってくる再生可能エネルギーの普及に貢献できる研究をしたいです」と目標を語ってくれました。
夢の奨学金を受けて国立大学を卒業し、今回第8期生として大学院に進学する奨学生は、HPCとよばれる高性能計算の技術を用いた物理シミュレーションの手法の研究開発に取り組み、修士課程の間に論文を1本、学術論文として投稿したいと目標を語ってくれました。
社会学部に進学し、社会福祉に関する勉強を始める奨学生は「在学中には社会福祉主事および指導員免許等の資格を取り、卒業時には社会福祉士の資格取得を目指しています。将来はNPO法人などに就職し、子どもと関わる仕事をしたいという夢を持っています」と決意を新たにしました。
「毎年この日が一番楽しみ」笹川会長
これから勉学に励む第8期生に、笹川会長からお祝いと激励の言葉が贈られました。
「今日はようこそお越しくださいました。私はこうして奨学生の皆さんにお会いするのを、一年で一番楽しみにしています。なぜなら、皆さんは本当に学生らしい学生であり、しっかり目標を持って進学なさっているからです。
さまざま機会に学生にお会いしますが、今の大学生は大学に入ることが目的になってしまっていて、なんとなく学生時代を過ごし、なんとなく就職してしまったという人も少なくないのです。
しかし、奨学生の皆さんは自己紹介で伝えてくれた明確な目標をお持ちです。当たり前のことように思えますが、今はこういう学生は少なくなってきました。
目標に向かって邁進することは素晴らしい。とはいえ、一方でさまざまな悩みも出てくるでしょう。でも心配いりません。悩むことは生きている証拠、悩みのない人はいないのですから。
私も中学生や高校生の頃は辛いことが多かった。今でいう「ヤングケアラー」で、母を支えて家のことをしていました。それも歳をとってくると懐かしい思い出になります。どんなに長いトンネルでも出口あり、どんな暗闇でも夜明けはあります。問題の多くは時間が解決してくれます。悩みにぶつかってもそれを乗り越えたとき、竹の節ができるように、強くなるのです。だから私は『大いに悩みなさい』と伝えたいですね」

悩みを一人では抱え込まないで
続いて、人に相談することが大切だという話もありました。
「悩みを抱え込んで閉じこもってしまうのはよくありません。悩みを話せる友人をつくりましょう。友人の数は多い方がいいのではありません。何でも話せる人が数人いればいいのです。私にも親友と呼べる人が3人います。先輩、同年代、そして年下の人です。二人はもう亡くなってしまいましたが、友人の存在は心強いです。
日本では現在、うつ病になってしまう人の多さが問題になっています。みなさん、悩みをお一人で抱え込んでしまっているのではないでしょうか。
奨学生には友人のように何でも相談できるソーシャルワーカーやスタッフがおります。遠慮せずに相談してください。日本財団は奨学金を出してそれで終わりではありません。これからの学生生活、何か問題があったら一人で抱え込まず、ぜひ相談をしてください」との温かい励ましの言葉がありました。
会長への質問「偏見はどうしたらなくなりますか」
「それではこの機会に笹川会長に何でも質問してください」との呼びかけに、さっそく奨学生の手が挙がりました。
「笹川会長はインドまで出かけてハンセン病の偏見をなくす活動をなさっていることを知りました。具体的にどんなことをしたら、偏見というものはなくなるのでしょうか」という質問がありました。
会長は「難しい問題ですね。偏見や差別というものは、それぞれの人が心に持っている“病”なのです。ハンセン病は病気が治っても「元ハンセン病の患者」ということが一生ついて回ります。そのような病気は他にはありません。旧約聖書の時代から偏見がありました。ですから、なかなか解決する方法がなかったわけです。
こうした偏見や差別はハンセン病に限りません。人種差別もそうですし、少数民族問題もそうです。今はアジア人差別も激しいと聞きます。人間の心にある病であり、社会が持っている病なのです。
これを正していくということは並大抵ではありません。でも誰かがやらなくてはいけない。それは安全地帯なところにいて「差別はよくない」といっているだけできないのです」との答えでした。
奨学生からはさらに質問が続きました。
「ハンセン病の偏見をなくす取り組みは、必ず誰かがやらなくてはいけない問題だとおっしゃいました。誰かがやらなくてはならない問題に立ち向かっていくというような、利他的な視点を持つことは難しいと感じています。利他的な視点を持ち、一歩踏み出すことができる人間になるためにはどのようなことが必要か教えてください」
心で考えて行動することの大切さ
これに対して会長は「心で考えることだ」といいます。
「それはね、頭で考えることではなくて、心で考えることだと思います。考えるということには、頭で考えることと、心で考える、の2つがあるのです。
インドにダライ・ラマというチベット仏教の有名な宗教家がいらっしゃいます。その方もハンセン病の差別根絶のために私に協力をしてくださっています。インドでは元ハンセン病の元患者さんのほとんどが物乞いをして生活されています。
ダライ・ラマ氏に『そのような状況をゼロにしようという活動を私は始めました』と申しましたら、『それは不可能では』とおっしゃった。私は「できるかできないか、やってみなくてはわからないのではないでしょうか」と申し上げたら、とても驚かれて『その通りだ』と。その後、ダライ・ラマ氏は本の印税を私に寄付してくださった。うれしかったですね。何かやらなくてはご自分で思ったなら、思いのまま、心で考えて行動に移すことが大切です」
「真面目な話だけでなくてもいいので、何でも話してください」と笹川会長が声をかけ、今の若者の日常、価値観、流行語の話など、和やかなやりとりもありました。
奨学生とのざっくばらんな会話から、「年齢が離れていくので、ジェネレーションギャップも年々開いている感じがしますね。私が『こうだ!』と思うことを伝えるだけではなく、若い人の考え方を学ばなくてはいけないですね。人生経験を重ねたからこそわかることもありますが、一方で、新しいことを若い人から教わらないといけない時代になってきました」とお互いが学び合うことの大切さを伝える言葉もありました。
笹川会長からのアドバイスを受け学生の緊張もほぐれ、最後は参加者全員で記念写真を撮影し、認定証授与式は終了となりました。