おりんぴあどりーむせと(離島航路ワーキンググループ)安心でワクワクする離島航路のアイドルを目指して

画像:おりんぴあどりーむせと

プロジェクト概要と開発状況

コンソーシアムメンバー(2024年4月時点)

プロジェクト概要

日本海洋科学、両備フェリー他6社は、少子高齢化、人口減少による内航海運・航路の持続可能性の課題の解決を目指す「MEGURI2040」プロジェクトの中でも、特にそれらの課題の影響を受けている、本州~小豆島に就航するフェリーを対象としており、離島航路の維持を自動運航システムによって、その解決にチャレンジします。
少子高齢化によって、船員の担い手が減少する可能性が高くなっていますが、離島航路の船員はその地域出身の方が担っていることも多く、これらの航路の船員不足はより深刻化する可能性があります。船員不足によって、離島航路の減便が余儀なくされると、その地域はより不便になってしまい、さらなる地域人口減少や産業衰退を招いてしまうかもしれません。ここで、自動運航システムによって船員の負担が軽減されると、航路の便数確保や、夜間の航行等の可能性が広がり、国内の300に近い離島航路の維持発展に寄与できるのではないか、という念いを込めて、活動を行っています。

開発状況(2024年4月現在)

2022年10月のプロジェクトの開始以降、2025年夏頃の運用開始を目指し、関係の皆さまと開発を進めています。具体的には、自動運航システムを開発するメーカ各社と、船主・運航者である国際両備フェリー、最終的にシステムを利用するフェリーの乗組員の皆さまと、システムのあり方・コンセプトを擦り合わせ、それを具体化するための要件定義・仕様策定を慎重かつ綿密に行ってきました。現在は策定した仕様に基づいて、各メーカによってシステムを構成する各機能の開発を進めていますが、2024年9月からはいよいよ開発した各機能を統合し、試験を行う段階に入ります。
また、システム開発と平行して、改造造船所の神田ドック、建造造船所の藤原造船所の支援を受けながら、本船の改造も進めてきました。離島WGでは、対象船である「おりんぴあどりーむせと」に対して、3回に分けて改造工事を行うこととしています。2023年11月の第1期工事では、システム搭載の土台となる作業として、船橋ー機関室間の電線工事や船橋内のコンソール台座等、入念な下準備を行いました。2024年6月の第2期工事では、自律化システムと既存システムの中間に位置する、姿勢制御システムを搭載します。2025年6月の第3期工事では、陸上で試験を行った自律化システム一式を搭載し、海上試運転も計画しています。

写真:自律運航システム内のキーとなる機器(APU)に追加実装した機能を検証している様子
写真:新たに開発する操船制御システムのロジックについて、開発チームで議論している様子(三井E&S造船株式会社)

開発のポイント

離島WGにおける開発の特徴は、瀬戸内海で船が多数行き来する中での自動航行を行いつつ、狭小な岸壁にスケジュールを守って離着桟する必要があり、避航機能と船体制御機能には高い能力が求められます。このような背景から、自動運航システム開発の中でも特に新規性が高い避航機能については、特別に三菱造船・三井E&S造船・日本海洋科学の3社のメーカがそれぞれの避航機能を開発しています。実証実験と運用を通じて、3社の機能の比較等を行いつつ、相互にブラッシュアップして、品質が高く、船員による避航操船に近しいレベルになることを目指しています。また定時運航が求められるフェリーにおいて、スムースな離着桟は必須です。このため、離島WGの船体制御機能開発では、三井E&S造船の新規開発機能と製品化されている制御装置を組み合わせて、その場回頭や船首・船尾着桟等の高度な操船に取り組みます。

また、旅客を乗せるフェリーということで、より安全な航海の実現のため、陸上によるモニタや支援を可能とする装置を搭載しています。古野電気の開発するクラウドサービスによる陸上支援機能は、陸上のオフィスと本船船橋の装置を相互に連携させることを可能とし、システムと船員・陸上の管理者間のシームレスなコミュニケーションによって、安全性を高めます。

写真:長崎と横浜の開発拠点をつなげて自動運航システムの健全性レベルを統合的に判定・表示するインターフェイス画面の開発風景

今後について

私たちは、目下各メーカにおいて機能の開発の山場を迎えています。2024年春からはメーカ内での試験を行いつつ、同年夏からはそれぞれの機能を接続し、離島WGの自動運航システム全体としての試験を実施します。試験では、日本海洋科学の操船シミュレータ設備で対象航路を再現しつつ、一連のシミュレーション航海を行い、仕様に定めた機能が実現されていることを確認します。さらには、フェリーの船員の皆さまにも参加いただき、避航や離着桟操船の仕上がりにご意見をいただきつつ、本船搭載前の調整・ブラッシュアップを行う予定です。エンドユーザの期待・意見を取りこむことで、現場の運用にフィットした使い勝手のよいシステムに仕上げていきます。また、中長期的な利用も見据えて、国土交通省、日本海事協会とも連携しつつ、安全なシステム構築を行います。

関係者コメント

上田 龍(国際両備フェリー株式会社 岡山航路部)

離島航路旅客船の無人運航技術の実用化に向けて、弊社船舶「おりんぴあどりーむせと」の改造に着手し、陸上からの支援体制の構築にも取り組んでいます。このプロジェクトは、船員不足と安全性の確保という、フェリー業界にとっての重要な課題に対する解決策として期待されています。私たちは、自動運航技術が日々進化する様子を目の当たりにし、その進歩に心躍らせています。私たちの取り組みが、より安全で効率的な海の旅を実現する一歩となることを願ってやみません。

画像:両備フェリーロゴ

加藤 あかり(株式会社三菱総合研究所 先進技術・セキュリティ事業本部 フロンティア戦略グループ)

三菱総合研究所は本事業にて主に規制緩和やユースケース検討などの社会実装部分を担当しています。離島航路は他の実証航路と比較して、地域住民・地場産業や観光客がメインユーザとなるフェリーであり、地域密着型の取り組みであることが特色です。そのため、「無人運航船がいかに地域課題解決に繋がるか」という観点から自治体や舟運事業者の方々と課題や将来像を議論しています。そうした議論を反映させ、この取り組みを実証実験で終えずにその後の無人運航船の実利用に繋げたいと考えています。
また、地域課題解決にとどまらず、無人運航船により瀬戸内エリアの美しい自然・文化といった魅力を増大させ、地域振興との好循環を生み出せることが離島WGの社会実装のゴールと捉えています。地域住民の生活、地域産業・観光など様々なベクトルでより良い社会が実現できるような社会実装を目指してまいります。

画像:MRIロゴ