第21回国際ハンセン病学会

於:ハイデラバード (インド)

ナラシムハ・ラオ・第21回国際ハンセン病学会組織委員会委員長、ロッチ・クリスチャン・ジョンソン・国際ハンセン病学会会長、ラオ・WHO東南アジア事務局国際ハンセン病プログラムリーダー、ハリッシュ・ラオ・ガルー・テランガーナ州財務・保健大臣、お集りの皆さん。インドではモディ首相の卓越した指導力のもと、2030年までにハンセン病の感染停止を実現するという野心的な目標を掲げ活発な活動が行われています。そのインドで今回国際ハンセン病学会が開催されることを嬉しく思います。そして、90年以上の歴史を誇る国際ハンセン病学会が、ハンセン病との闘いに重要な役割を果たしてきたことは皆さんご承知の通りであり、長年の尽力に改めて敬意を表します。

我々ハンセン病と闘う関係者にとっては試練の3年間でした。コロナ禍という未曽有の事態が世界を襲い、我々のハンセン病との闘いにも大きな影響を及ぼしました。勿論、コロナの影響でウェビナーといったウェブ会議が発達し、世界中どこでもオンラインで一堂に会し意見交換が出来るようになりましたし、Don’t Forget Leprosyキャンペーンに代表されるように世界中の当事者、医療従事者の声を届ける活動も積極的に展開されました。この困難な時期における皆さまの不断の努力に改めて敬意を表します。

一方、現場での新規患者発見の活動が停滞したのもまた事実であります。多くの国においてハンセン病対策活動の中断や遅延が発生し、例年に比べるとこの試練の3年間は3~4割程度新規患者の発見数に落ち込みがあったと伺っています。新規患者の発見活動が停滞したことにより、治療を受けられず目に見える障害に苦しむ患者も増加してしまったかもしれません。「現場には問題点と答えがある」という信念のもと、40年以上にわたり世界120ヶ国以上の現場で活動をしてきた私と致しましても、この3年間は現場訪問が叶わず十分な活動が出来なかったことに忸怩たる思いでありました。

しかし、世界は落ち着きを取り戻し、本日のように再び皆さんに対面できる日常が帰ってきました。今こそ、試練の3年間での経験を活かしながら、WHOの定める「世界ハンセン病戦略」に基づき、ゼロ・レプロシーに向けて活動を今一度強化していこうではありませんか。

ここにいらっしゃる多くの皆さんはご存じの通り、私はハンセン病との闘いをモーターサイクルに例えています。即ち、前輪は病気を治すことであり、後輪は差別を無くすこと。この両輪がうまくかみ合わなければ、真のハンセン病の解決はありません。前輪である医療面の取組みについていえば、国際ハンセン病学会の貢献なしには、世界的なハンセン病患者の減少はなしえなかったでしょう。そして、一層活動を強化していくためには、早期発見・早期治療の推進は不可欠であり、今回の国際ハンセン病学会のテーマである「知識の啓発と早期発見、そして質の高い治療へ」はまさに時宜を得たものであります。本学会が更なる医療面での取り組みに大きな成果を挙げることを期待しております。また同時に、早期発見・早期治療の活動を強化していくためには、しっかりとした体制が構築されていなければなりません。例えば、ここインドにおいてはASHAと呼ばれる保健師が各家庭を回り、積極的に患者の発見を行っていますし、こうした活動には政府や当事者団体なども連携しています。このようなインドの素晴らしい事例を参考にしながら、新規患者の早期発見・早期治療活動の強化に向けて、当事者団体、政府、WHO、NGO、研究機関が一致団結して協力していく体制を構築して欲しいと思います。

そしてモーターサイクルの後輪である差別との闘いについては、特にハンセン病回復者の参画なしに進めることはできません。私は当事者の皆さんこそが、ハンセン病に対する偏見や差別を無くす主人公として、そして、社会を変える指導者として活躍して欲しいと願っています。回復者の中には「自分に人権などあるのか」とセルフ・ディスクリミネーションを持っている方も少なからずおります。しかし、2010年にはニューヨークの国連総会において192ヶ国全会一致で「ハンセン病の患者、回復者とその家族への差別撤廃決議」と「原則とガイドライン」が決議されている通り、正当な権利があるのです。是非とも自信と誇りをもって活動をしてください。勿論一人で活動することは心細いでしょう。しかし、皆さんは一人ではありません。インドのAPAL、エチオピアのENAPAL、ブラジルのMorhanなど回復者組織の積極的な活動の輪は世界中に広がっています。そして、今回の国際ハンセン病学会のプレイベントとして、11月6~8日に世界ハンセン病当事者団体会議が開催されたことは画期的なことであり、ハンセン病を正しく社会に理解させる活動が更に強力になることを期待しております。当事者団体会議で議論された結果についても、この後APALのマヤ会長から報告されることになっておりますので、是非当事者の意見に耳を傾けてください。

皆さんの弛まぬ努力の結果、ハンセン病との闘いは最後の1マイルまで来ました。「100マイルの道のりは99マイルをもって半ばとす」という言葉の通り、残りのこの1マイルは大変難しい道のりであり、これまで以上の努力が必要であります。こうした活動の一環として、来年2023年はノルウェーの医者であるハンセン博士がらい菌を発見して150年という記念すべき年であり、ベルゲン市そしてベルゲン大学と共にハンセン病に関する国際会議が開催されます。皆さんの積極的な参加を期待しております。 最後に、ハンセン病のない世界という歴史的偉業に参加しておられる皆さんに心からの尊敬と敬意を表します。私自身この活動に参加し、成果をあげることに責任を感じておりますが、同時に、ゼロ・レプロシー実現のために皆さんと共に活動できることを誇りに思っております。みなさん、ハンセン病のない世界が必ず実現されると固く信じ、これからも共に活動していこうではありませんか。ありがとうございました。