北極海サークル日本フォーラム

於: 東京

オラフル・ラグナル・グリムソン・北極サークル議長、お集りの皆さま。この度、北極サークルと笹川平和財団が中心となって「北極サークル日本フォーラム」が開催されることを嬉しく思うと同時に、挨拶の機会を頂戴し感謝申し上げます。特に、北極サークルはグリムソン議長の指導のもと、活発な議論と将来に向けての建設的な話し合いが進んでいることに敬意を表します。

30年前、北極海航路開発は不可能と考えられていました。しかし私は人類にとって未知なる北極海にロマンを感じ、北川弘光・名誉教授や工藤栄介氏と共に「夢の航路」実現に挑みました。そうした挑戦の1つが、ノルウェーのフリチョフ・ナンセン研究所とロシアの中央船舶海洋設計研究所と共に10年間実施した「国際北極海航路開発計画(INSROP)」であります。また、INSROPに対応する日本独自の「北極海航路の利用促進と寒冷海域安全運航体制に関する調査研究(JANSROP)」も実施し、こうした取り組みの成果も北極評議会でも取り上げられるなど、国際的に高い評価を博してきました。そして今、我々がロマン、そして未知への挑戦として取り組んできた「夢の航路」は現実となり、北極海航路を利用した船舶の航行実績が世界的に急増しています。

一方、北極海を含む海洋は危機的状況に陥っております。温暖化による北極海の自然環境の変化、生態系や先住民たちへの影響、氷解による海面上昇がもたらす島嶼国の危機、など北極にまつわる課題は多種多様であり、これまで我々のロマンであった北極も現実の脅威に直面しています。SDGs14において「健全な海洋は人類の生存と地球上の生命にとって不可欠である」と言及されているように、北極海を含む海洋の危機は人類生存の危機でもあります。しかしながら、これまで日本そしてアジア諸国は、こうした北極海の課題に対しどのように関与していくか、残念ながら明確な将来像をもってきませんでした。今こそ、「人類共有の財産である海洋」という考えのもと、平和裏にそして秩序に基づく持続可能な北極海の維持・管理の為に尽力していく必要があるのではないでしょうか。

本日のフォーラムには世界各国の専門家の皆さんにお集まりいただいております。海洋をめぐる環境は目まぐるしく変化していますが、北極海の直面する変化は極めて深刻です。皆さんの知見と経験を結集して、日本そしてアジアとして北極サークルに協力すると同時に、どのような役割が可能か探って参りましょう。ありがとうございました。