ハンセン博士らい菌発見150周年記念ベルゲン国際ハンセン病会議(開会式)
マーガレス・ハーゲン・ベルゲン大学学長、川村裕・駐ノルウェー日本国大使、イングヴィルド・クジェルコル・ノルウェー保健大臣、リン・クリスティン・エンゴー・ベルゲン市長、ハンセン博士のひ孫であるアビ・パトリックス氏、お集りの皆さん。ベルゲン、そしてノルウェーが世界に誇るハンセン博士がハンセン病の原因であるらい菌を発見して150年という記念すべき年である本年、2月の式典に続き、本日ハンセン病と病気にまつわる差別のない世界の実現に向けた国際会議を開催できることを心から嬉しく思います。
ハンセン病はハンセン博士がらい菌を発見するまでは、神罰や呪いであるとまことしやかに信じられていました。驚くことに通信手段も交通手段も発達しておらず世界がまだまだ分断されていた時代からハンセン病は忌み嫌われ、ひとたびハンセン病に罹患すれば患者を辺鄙な土地や絶海の孤島に隔離するということは世界各地で共通して行われていました。そして今から150年前、この暗い状況を一変させる可能性を秘めた一つの光が見つかりました。ハンセン博士によるらい菌の発見です。私はこの歴史的発見から今日に至るまでの150年間に目撃された様々な事績に思いを馳せます。
ハンセン病は神罰でも呪いでもなく、らい菌によって引き起こされる極めて弱い感染症であると判明してから、「カーヴィルの奇蹟」と呼ばれるハンセン病の治療に有効性を示したプロミンの合成、そしてダプソンの抽出が実現するまでの約80年間、そこには医療従事者の並々ならぬ努力がありました。
また、ダプソンに対する耐性菌の発現に対処すべく更なる研究開発がすすめられ、WHOの研究班により現在まで使用されている多剤併用療法、即ちMDTと呼ばれる治療法が確立されたことで、ハンセン病は早期発見・早期治療を通じて障害なく完治する病気となったことは患者に希望をもたらし、これまでの約40年で1600万人が治療されました。
こうした事績を聞くと、もしかしたら、ここにいる皆さんの中には、ハンセン病は過去の病気だと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、残念ながらハンセン病は過去の病気ではなく、現在進行形の病気なのです。今なお、年間20万人の新規患者が発見されており、また、厳しい差別を受けるハンセン病患者、回復者その家族の総数は世界中で数千万人とも言われています。確かに、彼らに対する厳しいスティグマや差別は人権問題であると認識され、差別撤廃決議案が2010年の国連総会において192ヶ国全会一致で採択されました。しかしながら、これは人権問題としてのハンセン病との闘いの第一歩を踏み出したにすぎません。何より旧約聖書の時代から続くハンセン病患者、回復者とその家族へ対する厳しいスティグマと差別という人権問題は依然として社会に静かに沈殿し、具体的対策が進んでいないのが現状です。また、ハンセン病に対する差別法も現在でも、先進国と呼ばれる国を含め世界20ヶ国を超える国々に合わせて130程度存在しています。加えて、薬で完治するにも拘らず、元患者、回復者と呼ばれ、社会のみならず家族からも捨てられる病気はハンセン病をおいて他にありません。人権が一層重んじられてきている現代に於いて、このような大規模かつ深刻な人権問題を未解決のままにしてはなりません。即ち、この状況に変化をもたらさなければならず、そして我々にはそれが出来ると確信しています。
なぜなら、私が過去50年にわたり、ジャングルや砂漠を含む世界120ヶ国以上の僻地を訪れ学んだことは、情熱と未来志向の行動は世の中に変化を起こすことが出来ると確信したからです。ハンセン博士、ダミアン神父、ガンジー、マザーテレサ。一人一人の情熱と未来志向の行動が、多くの人に希望を与え世の中を変えてきました。皆さん、この彼らの献身的な取り組みと歴史的な偉業を引き継いで参りましょう。
そして、皆さん。私は今ここで、私が50年前に父と共に韓国のハンセン病療養所を訪れ、父の仕事を継いでハンセン病を世界から無くすために活動することを決意したあの日と同じように、改めてハンセン病にまつわる差別を解消しハンセン病のない世界の実現に向けて我が残りの人生を捧げることを約束します。ありがとうございました。