ベルゲン国際映画祭レセプション

於: ノルウェー

お集りの皆さま。本日、この由緒あるベルゲン国際映画祭において、ハンセン病にまつわるドキュメンタリー・フィルムを上映できることを嬉しく思うと同時に、上映の実現のために尽力して下さった皆さんに心から感謝を申し上げます。

皆さん、2023年は、ベルゲンの誇る偉大な医師であるハンセン博士がハンセン病の原因となる「らい菌」を発見して150年という特別な年であります。そして、ハンセン博士のらい菌発見という偉大な功績があったからこそ、今やハンセン病は薬を服用すれば完治する病気となり、ノルウェーを含む欧米等先進国でハンセン病患者が見つかることはほとんどなくなりました。

しかし、皆さん、忘れないでください。ハンセン病は決して過去の病気ではなく、現在進行形の病気なのです。今なお発見される新規患者の数だけで年間20万人に上り、数百万人の人がハンセン病が進行したことで生じる障害を抱えて生活しております。私は半世紀にわたり、120ヶ国を超える国を訪問し、それこそジャングルから砂漠、絶海の孤島にいたるまで様々な現場を訪問し、こうした状況をこの目で見てきました。そして、何より、旧約聖書の時代から続く、ハンセン病に対するスティグマや差別は、残念ながら依然として苛烈であるのみならず、ハンセン病による差別を経験した患者、回復者及びその家族は数千万人に上ると言われることもあります。まさにハンセン病は世界で最も古く、そして大規模な人権問題の1つといえるのです。

私自身、人権問題としてのハンセン病を解決するべく、2000年初頭から当時の国連人権委員会に働きかけ、2010年には国連総会でハンセン病患者、回復者とその家族に対する差別撤廃決議と「原則とガイドライン」が192ヶ国全会一致で可決されました。しかし、これはハンセン病にまつわる差別のない世界の実現に向けたほんの端緒に過ぎません。依然として、ハンセン病に対する差別法が世界24ヶ国に139存在していることから、その撤廃に向けて懸命に努力をしておりますが、様々な地域で独自の差別的慣習が残っているという報告もあります。また、ハンセン病の患者、回復者自身が「自分たちには人権があるのか」といったセルフ・スティグマを抱えていることも少なくありません。

このように、ハンセン病に対する差別は世界的で大規模な人権問題にも関わらず、社会に深く静かに沈殿して、未だにこの深刻な問題は世界の人々に知られず、理解されていないのが現実です。このようなハンセン病の実情を広く周知・啓発する活動の一環として、本年2月にベルゲン市とベルゲン大学がらい菌発見150周年記念式典を開催下さり、また、我々日本財団と笹川保健財団も6月にここベルゲンでハンセン病国際会議を開催致しました。そして今回、ベルゲン映画祭において上映されることは、ハンセン病の人権問題の解決に尽力している私たちにとって、大きな勇気と希望を与えてくれるものであり、また、より多くの皆さんにハンセン病を知り、考える機会になることを期待しております。

ハンセン博士の母国であり、また人権先進国であるノルウェーの皆さんには、必ずやハンセン病は人権問題であるという認識を新たにしていただけるものと思います。皆さんの協力をいただくことで、ハンセン病に対する差別のない世界の実現に近づけるものと私は確信しております。皆さん、ハンセン病のない世界は見果てぬ夢ではありません。ありがとうございました。