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オンラインで不登校児を支援。メタバース空間が子どものもう1つの「居場所」に

- メタバースを活用した不登校支援プログラム「room-K」を認定NPO法人カタリバが運営
- 「room-K」が目指すのはオンライン教育支援センター。子どもたち一人ひとりの次の一歩のための心の栄養を補給していく
- 一人ひとりに合った学びの場を。不登校支援は行政・個人ともに考えていくことが重要
取材:日本財団ジャーナル編集部
全国で24万4,940人。この数字は2021年度に「不登校」とみなされた小・中学生の人数(※)で、過去最多を記録しました。

文部科学省では、学校の役割は「全ての子どもが自立して社会で生き、個人として豊かな人生を送ることができるよう、その基礎となる力を培う場」(※)とされていますが、現在、その居場所に行くことができない子どもが増えているのも現状です。
そんな不登校の子どもを対象に、居場所づくりやオンラインによる学習支援などに取り組んでいるのが認定NPO法人カタリバ(外部リンク)。2021年より、さまざまな理由から学校に行くことができない子どもとその家族を対象に、メタバース空間(※)を活用したオンライン不登校支援プログラム「room-K」(外部リンク)というサービスを立ち上げました。
- ※ コンピューターグラフィック(CG)で表現された仮想空間のこと。アバターと呼ばれる自分の分身を作り、メタバース内で操作することができる
今回、「room-K」の事業担当者、萬代奈保子(まんだい・なほこ)さんに、プログラムの内容や、メタバース×教育の可能性、実際に参画している自治体や教育関係者、子どもたちの声などについてお話を伺いました。

さまざまな社会変化が不登校増加の理由に
――過去最大となった不登校児童の人数ですが、年々増え続けている要因としてどのようなことが挙げられるでしょうか?
萬代さん(以下、敬称略):一概に限定できるわけではなく、多様な問題が含まれていると考えています。
まず挙げられるのが「教育機会確保法」(外部リンク)の施行です。不登校の子どもに対して、学校外など多様な学びの場を提供することを目的とした法律で、これが施行されたことで、それぞれに合った学習環境で学ぶことが容認され、親御さんも学校側も「無理に登校させることだけが正解ではないのでは」と考え方が変化してきたように感じます。
――他にはどのような要因が考えられますか?
萬代:SNSやネットの普及も要因の1つとして考えられるのではないでしょうか。いまの時代、子どもたちは学校だけでなくLINEなどのSNSでもつながっています。学校での関係性が学校外と地続きになってしまい、不安を感じる要因の増加や心休まる時間が減っていることも、関係しているかもしれません。
他にも、近年は発達障害などの問題が顕在化・認知されてきました。このように不登校の要因は一つに特定できるものではなく、社会の変化など複合的な要因から不登校の子どもたちが増加していると推察しています。
――さまざまな要因が絡んでいるんですね。カタリバがそういった子どもたちに居場所を届けようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
萬代:きっかけは2011年の東日本大震災です。それまでは高校に出向き高校生たちと少し年上の大人の出会いをつくる「出張授業カタリバ」という事業を主に展開していました。しかし震災で学ぶ場を失い、夢を諦めた子ども、希望の学校に進めず挫折した子どもを増やしたくないという思いから、学習支援と居場所づくりを目的とした「コラボ・スクール」(外部リンク)という、放課後学校のような活動を始めました。
それをきっかけに非日常だけではなく、日常的に子どもたちに関わる必要があると感じ、現在までさまざまな事業を展開しております。

――2021年には、不登校の小中学生に特化したオンライン支援プログラム「room-K」を立ち上げています。こちらはどういった経緯で立ち上がったのでしょうか?
萬代:新型コロナウイルスによる一斉休校で、子どもたちの居場所が失われてしまったことがきっかけです。「早急に何とかしないといけない!」と思い、一斉休校となってから2、3日後にカタリバオンラインという事業を立ち上げました。
当時は子どもや家庭の状況に制限を設けず、誰でも来られるオンラインの居場所として運営をしていたのですが、一斉休校が終わって登校していた子どもが通学を始めると、不登校の子が残り、「これまで不登校の子に居場所がなかったのでは?」ということに気付かされました。
不登校の子に対しての「オンライン支援」というのも、不登校支援の新しい手段になると感じ、カタリバオンラインは従来通りオンラインコミュニティサービスとして運営を続け、新しく不登校支援プログラム「room-K」が立ち上がったんです。
目指す姿としては、「子どもたちが社会と再びつながり、自分らしい学びの形を探す。その子にとっての次の一歩に寄り添うオンラインの教育支援センター」という風に説明しています。オンライン支援への接続がゴールなのではなく、リアルの場への接続含め、その子にとっての次の一歩に寄り添うことを大切にしているため、自治体・学校・教育支援センター等の公的リソースとの連携も大切にしたいと考えています。
「room-K」が次のステップのための「心の栄養補給所」になってほしい。そういった気持ちで運営を行っています。
支援計画コーディネーターとメンターで子どもと保護者を支援

――「room-K」ではどのような支援を行なっているのでしょうか?
萬代: まず行うのは支援チームの立ち上げと支援計画の作成です。入会時に子どもと保護者から現状や思いをヒアリングし、子どもの状況も鑑みながら、その子の状況にあった支援・学習計画を作成します。
支援チームには子どもと保護者の他に、1対1で子どもに寄り添う伴走者「メンター」と、保護者のケアや支援計画をたてチームをリードする「支援計画コーディネーター」がいます。
メンターは全国から募集し研修を受けたスタッフが、支援計画コーディネーターは子ども支援や教育経験が2年以上ある人が担当することになっており、チーム体制を組んで家庭に寄り添い、丁寧に伴走していきます。

萬代:支援をする上で大切にしているのは、まずは、メンターとの1対1の信頼関係構築により、「room-K」でホッとできる居場所・関係性をつくってもらうことです。その中で他人と交わることへの恐怖心や不安感を取り除いてもらうことが第一のステップだと考えています。
そこから自分の好きを見つけたり、いろんなことに興味・関心を持って自信をつけ、前に進んでいってもらいたいですね。
――子どもへの関わり方がとても重要になってくる気がします。伴走チーム内の「メンター」の役割をもう少し具体的に教えてください。
萬代:メンターは支援計画コーディネーターが立てた支援計画に基づいて、週に1回程度子どもと個別面談(作戦会議)を行います。まずはお互いを知る会話からスタートし、今の子ども心の状況や興味関心を読み取りつつ、次の小さなチャレンジについて話し合います。
少し年上のお兄さんやお姉さんのような「ナナメの関係」の立ち位置で子どもと接しながら意欲を育み、「room-K」が用意するプログラムに参加する等、次の一歩に寄り添います。
――プログラムにはどういったものを提供しているのでしょうか?
萬代:まずは学ぶことの楽しさを感じてもらうことを重視し、個別型・集団型が選べるなど、子どもの状況に配慮した構成となっています。クラブ活動、教科ワークショップ、学習支援プログラム、居場所型プログラムの4種類を用意しています。
「クラブ活動」は、Minecraftなどさまざまなツールを使用(※)して人とつながりを持つことの楽しさを感じてもらい意欲を育むことを目指しており、「教科ワークショップ」では教科学習に抵抗感がある子でも、まずは興味のあることを入り口に5教科を楽しく学んでもらえるようなプログラム作りを目指しています。
- ※ room-K内プログラムであり、Minecraft公式のものではなくMojangとは関係ありません
「学習支援プログラム」では、自分のペースで勉強したい人向けで、使用する教材が自由なオンライン自習室のようなプログラムや、AIドリルを活用して学ぶプログラムがあります。分からないところは、すぐ質問できるようにスタッフが待機しています。
「居場所型プログラム」は、いつでも安心できるみんなの居場所という立ち位置です。朝の会や帰りの会のようにテーマに沿ってお話ししたり、room-Kや集団活動に慣れることを目指しています。
その他、高校受験に向けた進路プログラム等の特別プログラムも開催中です。

――楽しそうなプログラムですね。room-Kを利用するにはパソコンやタブレットが必須ということでしょうか?
萬代:GIGAスクール構想(※)によって、1人1台端末を配布されていますので、自宅所有の端末がない子でもroom-Kを利用できるように、連携している自治体に協力いただき、学校配布端末の調整をしています。
- ※ 全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み
――現状、どれくらいの自治体と連携しているのでしょうか?
萬代:2023年4月の段階で、8の自治体、1つの中学校と連携させていただいています。
既に不登校支援の整備を努力されている自治体に対し、オンライン支援という方法で支援の行き届かない子どもたちに新たな選択肢を提供することは重要なことだと感じております。
保護者や学校の先生から届く喜びの声
――実際に「room-K」を利用している自治体や学校、ご家族からはどのような反響があったのでしょうか?
萬代:さまざまな状況の子どもたちがいるので、一概には言えませんが、ご家族から、「『room-K』にお世話になってから学校に足を運ぶようになった」「メンターとの約束を守って勉強を頑張るようになった」といった声をいただいたこともありました。
保護者にとっても、支援してもらえる機会、いわゆる安心材料が一つ増えたのではないかと感じています。
学校の先生方からは、「『room-K』を利用している生徒のコミュニケーションスキルが上がっているように感じる」「タッチ登校(※)した際に、以前より話ができるようになり、表情も明るくなってきた」「保護者の喜んでいる笑顔も見られるようになった」という声もありました。
大きな変化を遂げる子もいますが、自分のペースでゆっくりと歩んでいる子どもたちも多くいます。先生や保護者の方には子どもたちの状況をお伝えし、一緒に見守っていただいています。
- ※ 不登校等の生徒が学校参加に慣れるため「校門にタッチだけして帰る」、「教員に挨拶だけして帰る」など、「登校すること」を目的とした、滞在時間の短い登校を指す。
――どれも嬉しい反響ばかりですね。学校の先生の声を聞くと、教育者側にもオンライン支援のメリットがあるように感じます。
萬代:そうですね。日々の業務に追われる中で、どうしても先生1人で対応できることには限界があると思います。オンライン支援という新しい選択肢を活用し、一緒に家庭に寄り添うことで、支援の幅が広がればと思っています。
支援スタッフの中には、リアルの場で働くことが難しくなったけれどまだまだ子どもの支援に携わりたい、とroom-Kに応募してくださった方もいますし、海外に在住している方もいます。
そういう面でも、オンライン支援というのはメリットがあるのかなと思います。
不登校への固定観念を取り去ろう
――不登校問題・教育問題において、行政や自治体に期待していることはなんでしょうか?
萬代:行政や自治体の方々も不登校を課題と捉え、解決に向けていろいろな努力をされていると思いますし、現在連携いただいている自治体からは多くを学ばせていただいています。ですが、どうしても既存の制度や慣習、支援に縛られてしまう現状もあると思います。
私たちも含めて子どもを見守る大人たちが視野を狭めて議論し始めるのではなく、「子どもたちのため」というゴールから逆算をして、「そこにたどり着くにはいま何が必要か?」という視点で考えていけると、子どたちたにとってより良い取り組みが生まれると思っています。
――本記事を読んで、不登校問題を解決したいと思う人もいると思います。そういった方がすぐにとれる行動、最初に理解すべきことは何が挙げられますか?
萬代:まずは、自分が住んでいるエリアにはどういった公的な支援があるのか、どういった民間団体・NPOがあるのかを知ることが大切だと思います。
また、不登校の子どもたちは、それぞれ異なる背景や事情を抱えていることも理解してほしいですね。「不登校の子どもたち=元気がない」や「学校に行ってないからダメ」といった固定観念があるなら、それを取り払ってほしいです。
「room-K」を通して少しずつ前に進もうとしている姿、好きなことを見つけてプログラムを楽しんでいる姿、一生懸命な子どもの姿はとても素敵ですし、自分なりに取り組んでいますから。
その上で、「その子にとっての幸せ」を考えながら支援に携わってほしいな、と思いますね。意識を変えるだけでも、大きな支援の1つになると思います。

編集後記
「学校に通うことが唯一のゴールではない」という言葉がとても印象的でした。デジタル技術も活用しながら、子どもたちが学べる、居場所となる多様な環境をつくると共に、「学校は選択肢の1つに過ぎない」という考え方を社会に広げていくことも、複雑な理由を抱えた不登校の子どもたちの支援につながるのではないでしょうか、
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。